まずは、12球団を震撼させた『1位指名候補投手』の気になる発言から−−。
「もし社会人に行く場合は東芝にお世話になります」(6月8日)
今秋のドラフト会議で1位指名が確実な東浜巨投手(4年=亜細亜大)の口から、衝撃的な発言が出た。この日、亜大は社会人・東芝との練習試合を行った。その試合後、東浜投手は「基本的にプロ志望だが」と前置きしつつも、社会人野球を経由してからプロ入りを目指す選択肢も考えている旨も明らかにした。
同投手は沖縄尚学時代から注目されてきた逸材だ。社会人野球への進路を考え始めた理由は、昨秋に痛めた右肘にあると言う。
「大卒投手は即戦力と目される。その期待に応えられなかった場合…」
そう説明していたが、社会人野球に進めば、『指名対象選手』になるまで2年を要する。“遠回り”は良策とは言い難い…。
在京球団スカウトが今年のドラフト情勢をこう説明する。
「今年は即戦力投手が少ない…。巨人しか見えていない菅野(智之)クンを他球団が強行指名するという噂が流れているのは、そのせいですよ。ただ、高校生の方は『磨けば光るダイヤモンドの原石』が例年以上にたくさんいます。どの球団もそうだと思いますが、現場首脳陣は即戦力投手を欲しがります。ですから、今年は地方の大学、社会人の投手の調査に時間を掛けています」
東浜投手にも意中の球団があるらしい。その意中球団の都合でプロ入りを遅らせたのではないか、との憶測も飛び交っている。
各球団スカウトが大学、社会人投手の見極めに奔走しているなかで、阪神は意味シンな動きも見せている。
東京六大学・春季リーグ戦最終週1日目(6月2日)だった。早慶戦の行われていた神宮球場スタンドで阪神スカウトが目撃されている。一部報道では慶応大の福谷浩司投手(4年)に関するコメントも出していた。
しかし、熱視線を送っていたのは彼だけではなかったようだ。ライバル球団のスカウトは「阪神のスカウティング」をこう予想する。
「捕手の阿加多(直樹=慶大)クンも見ていたのではないか? 社会人・西濃運輸の小豆畑真也捕手(24)、東海大・伏見寅威捕手をリストアップしているとも聞いています。今年の阪神は捕手のチェックに余念がない」(ライバル球団関係者)
阿加多直樹捕手は同リーグ戦で4割4分7厘の高打率で『首位打者』を獲得している。この日は4打数4安打と爆発し、チームの勝利にも大きく貢献した。また、小豆畑捕手は『二塁送球』のスピードが群を抜いており、伏見捕手は2年生時に全日本入りするなど、両捕手の実力は12球団のスカウトが認めている。
阪神が捕手のスカウティングに熱心な理由は説明するまでもないだろう。城島健司(36)の長期欠場に加え、開幕マスクを任された藤井彰人(35)も『右太股裏の筋挫傷』で今季2度目の“長期離脱”に追い込まれている。藤井は実戦調整に入りつつあるとはいえ、これだけ捕手の人材難に悩まされるシーズンも珍しい。まして、ペナントレースは半分も消化していない時点で、だ…。しかし、日本ハムから緊急獲得した今成亮太捕手(24)を外野にコンバートしてしまった。
この今成の外野コンバートを受けて、ライバル球団はピンと来た。「阪神は捕手を上位指名する」と−−。
「即戦力の捕手を獲るとなれば、大学卒か社会人です。現有戦力の22〜24歳の捕手と年齢的にダブってしまう。高卒プロ2年目の中谷将大を外野にコンバートしたのは彼の打撃センスを生かすためでしょうが、今成までコンバートするとなれば、今シーズン、藤井にまたアクシデントがあった場合、実戦経験の少ない26歳の小宮山と29歳の岡崎太一をアテにしなければならない。そういうリスクを冒してでも『捕手登録選手』を整理したということは、ドラフト上位で即戦力捕手を指名したいからにほかなりません」(前出・ライバル球団関係者)
捕手の強化に反対するファンはいないだろうが、阪神が負うリスクはこれだけではない。日本ハム・大野奨太(08年ドラフト)、巨人・阿部慎之助(00年同)がそうだったように、『即戦力・大型捕手』を指名する場合、「1位指名=即戦力投手」を捨てなければならない。他ドラフト候補との兼ね合いもあり、一概には言いきれないが、即戦力と評価された野手も1位で消えるケースも少なくないからだ。今後、方針を代える可能性もあるが、
「阪神は速くからマークしていた九州共立大・川満寛弥投手をどうするのか? 地元・大阪桐蔭の藤浪晋太郎投手は…」
と、他球団はその動向を探っている。
昨年の伊藤隼太に続いて「2年連続での野手1位指名(=捕手)」があるのか。阪神はチーム改革を急いでいるようだ。