全国のTV視聴者にもすっかりお馴染みとなった「ブチ殺すぞコラァ!」と怒号飛び交う予告CMを、これでもかとに大量に露出し、「カンヌ上映会では、その残酷描写に途中退席続出」という扇情的な情報により、話題性もさらにアップ、トドメにたけし自身が各メディアへの宣伝活動に獅子奮迅、かつてないほど前宣伝に力と金をかけたことが奏功し、封切初日2日間の興行収入が1億4,530万9,000円、動員10万6,138人、という上々の興行成績をマークした(データは「シネマトゥデイ」より)。
肝心の本作、CMで散々謳われた「全員悪人」のキャッチフレーズに誇張はなく、往年の昭和任侠映画に真っ向からアンチテーゼを唱えるかのごとく、登場するのは金と権力への執着心に塗れた、意地汚いヤクザばかり。噂のバイオレンス描写も、歯医者のドリルで口の中をズタズタに切り裂く、箸を耳の穴に突き立て掻き回すなど、噂に違わぬ残酷ぶり。映画全編で無益な殺し合いが延々と繰り広げられ、鑑賞後にはドヨ〜ンとした気だるさだけが残るバイオレンス怪作、それが『アウトレイジ』なのだ。
ところが、ある日の映画館で、『アウトレイジ』鑑賞後の男性客がこんな一言をつぶやいていたのを、記者は耳にした。
「今は、相撲界の方がよっぽどアウトレイジ(非道)だよ…」
しかし、そう言いたくなるのも無理はない。いま大相撲が、一連の野球賭博問題で揺れに揺れ、存亡の危機に立たされている。警察側の狙いはズバリ、この賭博問題の向こうに横たわる、角界と暴力団の癒着の洗い出しであることは間違いない。
大関・琴光喜(佐渡ヶ嶽)が、元・押尾川部屋の幕下力士にして現在は暴力団関係者とされる者から、野球賭博の掛け金を恐喝されていたのが発覚したのが、去る5月の話。そこから角界の野球賭博の驚くべき実態が次々明るみになり、6月28日に、日本相撲協会の特別調査委員会は、ついに琴光喜と大嶽親方(元関脇・貴闘力)、時津風親方(元幕内・時津海)ら3名に解雇以上の重罰である「懲戒処分」を、協会トップの武蔵川理事長(元横綱・三重ノ海)に謹慎をそれぞれ勧告するという、かつてない強行裁定を下した。
特に大嶽親方の野球賭博へのハマりぶりは深刻で、琴光喜は同親方が野球賭博で作った数千万円もの借金を肩代わりしていたとされる。5月に発覚した琴光喜恐喝騒動も、大嶽親方が、自身の勝ち金回収を琴光喜に依頼したことが発端であることが発覚している。優勝32回の大横綱・大鵬の娘婿として、盤石の相撲人生を保証されていたはずの男が、自ら巻き起こした転落劇。自業自得としか言いようがない。思えば、一昨年に大麻騒動で解雇された元幕内・露鵬も、大嶽部屋の力士だった。この頃から、大嶽部屋は不祥事のデパートだったということか…。
大嶽親方とともに角界追放の運命を待つのみの身である時津風親方は、今も記憶に新しい、時津風部屋力士暴行死事件による先代(山本順一被告)の逮捕により、急遽引退し部屋を継承した人物。部屋継承時は「新生時津風部屋を良い方向へ導けるよう…」と殊勝に語っていたが、自身も不祥事であっという間に角界を去ることに。昭和の大横綱・69連勝の双葉山が創設した由緒正しき名門が今、この上なくダーティーな形で終焉を迎えんとしている。
このように、野球賭博を幹として大麻問題、かわいがりリンチ死と、昨今世間を騒がせた数々の不祥事にまで図らずも枝分かれしてしまう角界の闇。「一晩で300万円」ともいわれる巨額が動く野球賭博に暴力団が絡み、その巨額が力士間の星の貸し借り(「無気力相撲」=八百長)に流用されているのは想像に難くない(八百長と言えば蛇足だが、一部マスコミを通して角界の八百長を告発し続けた元親方と後援者の謎の病死の真相も、未だ闇に葬られたままであるが…)。
暴力団、八百長、麻薬、リンチ…。野球賭博をきっかけに、これだけの不祥事が次々リンクしてしまう国技・大相撲。その登場人物は、それこそ「全員悪人」。『アウトレイジ』は、次々ヤクザたちの屍が積み重ねられる中で、最後に笑うのは一番○△な奴、というどうにも笑えないオチであった。これから次々と力士・親方たちが粛正されていく中、角界で最後に笑うのはもしや、悪事がバレずに騙し通せるズル賢い奴、もしくは悪事を“力”で握り潰せる究極のワル、ということになるのだろうか…。