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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第327回 国民赤字化目標

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提供:週刊実話

 2019年の経済財政指針(骨太の方針)に、消費税増税とプライマリーバランス(基礎的財政収支、以下PB)黒字化目標が明記された。日本政府は6月12日、消費税増税を予定通り2019年10月に実施することを盛り込んだ「骨太の方針2019」を臨時閣議で了承したのである。これで、10月の増税は決定的になった。

 具体的には、骨太の方針2019に、
「消費税率引上げへの対応 政府は、2019年10月1日の消費税率10%への引上げに当たり〜」
 と、消費税率10%への引き上げが前提の文章が書きこまれているのである。ちなみに、PBについては、
「2025年度の財政健全化目標※の達成を目指す。」
 と記載され、注釈で「財政健全化目標達成」が、「2025年度の国・地方を合わせたPB黒字化」と説明されている。つまりは、「骨太の方針2018」のままというわけだ。

 PB黒字化目標を掲げる安倍政権は、自ら「国民赤字化」を目指すことを宣言している政権ということになる。どういうことなのか。

 日本国民は、改めて理解しなければならない。「誰かの黒字は、誰かの赤字。誰かの赤字は、誰かの黒字」という“真実”について。

 我々が所得を稼ぎ、収支が黒字になったとき、反対側に必ず「赤字」の経済主体が存在する。これは、地球上で生きる限り、誰も逃れることができない法則だ。というわけで、地球全体の黒字額(プラス)と赤字額(マイナス)を合計すると「ゼロ」になる。

 分かりやすい例を挙げると、相撲の取り組みにおいて、全員が勝ち越すことは不可能なのである。誰かの白星は、誰かの黒星。当たり前の話だ。

 さて、上記を理解した上で、左図を見て欲しいのだが、本連載で繰り返してきた通り、日本政府と日本銀行は「親会社・子会社」の関係にあるため、「統合政府」として理解しなければならない。何しろ、日本銀行の株式の55%を日本政府が持っている以上、統合政府を否定することは不可能だ。

 というわけで、日本政府と日本銀行を「統合政府」、民間側は企業と家計をまとめて「民間経済」と呼ぶことにする。統合政府が民間経済に対し、100兆円を支出し、10兆円しか徴税しなかった場合、政府側は90兆円の赤字になる。

 同時に、民間経済は90兆円の黒字になるのだ。つまりは、我々の懐で総計90兆円の「おカネ」が増えていることになる。一人当たりに換算すると、約75万円だ。一人当たり、75万円の年間所得が増加すると想像してみてほしい。20年以上もの期間、貧困化に苦しめられた日本国民は、きっと消費欲を爆発させることになるだろう。消費という需要が増えれば、日本経済は余裕でデフレ(総需要不足)から脱却できる。

 しかも、政府が90兆円の赤字になったとはいっても、統合政府で考えると、「現金紙幣、もしくは日銀当座預金というおカネ」が負債として増えたにすぎない。政府が国債を発行し、子会社の日銀に買い取らせると(直接ではなく、銀行経由で構わない)、「日本政府の国債という負債」が「日本銀行の当座預金(おカネ)という負債」に入れ替わる。

 事実上、政府はおカネを発行し、支出を増やしたことになるが、インフレ率が健全な範囲を維持している限り、何の問題もない。というよりも、今の日本はデフレだ。日本を「インフレにすること」は、むしろ政府の義務なのである。

 逆に、統合政府が10兆円しか支出しないにも関わらず、徴税は100兆円だったケースはどうなるだろうか。無論、統合政府は90兆円の黒字になるが、我々は90兆円の赤字にならざるを得ない。我々の懐から、一人当たり(年間)75万円のおカネが奪われることになるわけだ。

 貧困化した国民は、当然ながら消費や投資といった需要を減らす。結果的に、総需要不足というデフレは深刻化していく。

 いかがだろうか。問題はシンプルなのだ。

 誰かの黒字は、誰かの赤字。誰かの赤字は、誰かの黒字。

 この「単なる事実」を知った上で、安倍政権のPB黒字化目標をいかに評価するべきか。PB黒字化を目指し、政府の赤字を縮小していくということは、反対側で我々の黒字が容赦なく削減されていくという意味を持つのだ。

 日本のPBは、リーマンショック後に麻生政権が黒字化目標を破棄し(当時の麻生氏は「正気」だった)、2009年には対GDP比7%強に赤字幅を拡大した。政府は約35兆円の赤字になったが、反対側で民間が35兆円の黒字になったのである。麻生政権のPB赤字拡大がなければ、リーマンショック後の日本経済は、さらに悲惨なことになっていたことは疑いない。

 その後、民主党政権も赤字幅を維持したが、第二次安倍政権発足後に「PB黒字化」が始まる。直近のPB赤字は、対GDP比で2%台。

 元々は対GDP比7%台だったのが、5%も削減されてしまった。金額でいえば、25兆円以上だ。

 安倍政権がPB黒字化などという愚かな選択をしなければ、少なくとも日本経済は毎年25兆円以上も需要(=GDP)が大きかったことになる。経済成長率は、これまた“少なくとも”毎年5%超を達成できたはずなのである。日本経済は2014年時点でデフレから脱却し、我々の所得も順調に増加、「国民が豊かになる日本」を取り戻すことができていたはずなのだ。

 ところが、安倍政権は選択を誤り、PB黒字化目標という「国民赤字化」を目指す路線を採用した。結果的に、経済成長率は低迷し、国民の実質賃金はひたすら下がっていった。

 いい加減に、我々は理解しなければならない。PB黒字化目標とは、イコール「国民赤字化目標」なのである。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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