初夏の暑さに額に汗かきながら広大な栗東トレセンを東奔西走…最終回を飾るべく、全力疾走して到達したのがこの馬。昇竜の上がり馬エイシンデピュティだ。
父フレンチデピュティといえば、雄大な馬格で見栄えする産駒を輩出することで有名だが、デピュティも例に漏れずデビュー当初から馬っぷりの良さはひと際目立っていた。
「ボクが今までに扱った馬の中では2歳の時から馬体の迫力やキャンターが他馬とは違っていたし、抜けていた。ホント、正直この馬で家が建てられると思ったぐらいですから」
そのたくましい容姿に、ひと目で魅了されたという甲斐助手は愛馬との最初の出会いの様子を懐かしそうに振り返った。
もっとも、そうは簡単にビッグな夢はつかめない。「若馬のころはフワフワしたり、イライラしたりの繰り返しで大変だった」不安定な精神面が災いし、今回初の重賞挑戦にこぎつけるまで18戦のキャリアを要した。
だが、侮るなかれ。NHKマイルCで周囲のド肝を抜いたピンクカメオや、今回お手合わせする新潟大賞典1、2着馬のブライトトゥモロー、サイレントプライドがそうだったように、一戦一歩ずつ着実な進化を遂げるのがフレンチデピュティ産駒の特徴でもある。
「今では課題だった精神面の不安定さがどこにもない。レース当日も全然カリカリしなくなったし、競馬でも自分からやめるようなところがなくなった。それどころか、並ばれるとしぶとく抜かせない勝負根性が備わった」と甲斐助手。「だから千四のイメージが合った馬が千八の豪州Tであんな味のある競馬ができるようになったんです」と胸を張った。
その豪州Tはハナを奪うと絶妙なペースで逃げ、ラスト3F33秒1という驚異の二枚腰を発揮。見事に後続を振り切って見せた。
実戦はもとより、日ごろのケイコでも「心・技・体」すべてが完成の域に入った姿を披露している。「最近はキャンターでもどんどん素軽くなっているし、ゴール前でフワッとする面もなくなり、集中力が途切れることがなくなった」直前(6日)はそれを体現するように、自己ベストとなる坂路800m50秒6→37秒0→12秒4を計時。疾風迅雷のごとく駆け抜けた。
「オーナーサイドの要望で安田記念を回避し、こちらに回ったんですが、今のデキならたとえGIでもの気持ちがありましたからね。秋の目標は天皇賞。そのためにもぜひ勝ちたい」と意気込む甲斐助手。「ウチの厩舎自体もエイシンルーデンス以来(2001年中山牝馬S)、重賞を獲っていないし、本当に力が入ります」と闘志をみなぎらせていた。
“谷やんの栗東ぶっち斬り情報”。そのタイトル通りの勝ちっぷりで記者に有終Vを飾らせてくれるのは間違いなくこの馬しかいない。