事件は11月1日、日本ハム対巨人の日本シリーズ第5戦(札幌ドーム)で発生した。巨人が5-2で3点リードの4回表、無死一塁で打者の巨人・加藤健捕手(31)がバントの構えをしていたところ、日本ハム・多田野数人投手(32)が投げた球はインコース高めの胸元付近に行った。
そうすると、加藤はのけぞって転倒し、頭を押さえて、“頭部死球”をアピール。これが功を奏したのか、柳田球審は死球の判定。しかも、頭部に当たっての危険球とみなされ、多田野は退場処分となった。日本シリーズでの危険球退場は史上初。
危険球に関しては、アグリーメント第39条で「投手の投球が打者の顔面 、頭部、ヘルメット等に直接当たり、審判員がその投球を危険球と判断したとき、その投手は試合から除かれる。頭部に直接当たった場合でも、審判員がその投球を危険球とまではいえないと判断したときは、警告を発し、その後どの投手であろうと再び頭部に当たる投球を行ったときは退場とする。危険球とは、打者の選手生命に影響を与える、と審判員が判断したものをいう」と規定されている。
温厚で知られる日本ハム・栗山英樹監督(51)も、さすがに血相を変えて猛抗議。柳田球審の死球判定を尊重した上で、栗山監督は「バントに行っているよね? バントに行けば、(体に当たって)空振りしてもストライク」を主張したが、判定は覆らず。
結局、無死一、二塁で試合は再開され、緊急登板した森内壽春投手(27)が次打者を抑えたものの、松本哲也外野手(28)に右翼へのタイムリー安打を打たれて、決定的な6点目が入り、試合は10-2で巨人が快勝して日本シリーズ制覇に王手をかけた。
この試合はテレビ朝日系列で全国生中継され、このシーンのスロー映像が何度も流されたが、多田野の投球は加藤の体どころか、バットにも当たっておらず、単なる“ボール”。解説を務めていた元ヤクルト監督・古田敦也氏(47)は「誤審」を明言した。映像を見る限りでは、ボールと加藤の頭はかなり離れており、頭部死球でないことは明らかだった。
加藤の演技を見抜いていたのか、日本ハムのファンは5回表での加藤の次打席で、大ブーイングを浴びせた。札幌のファンは温かいことで有名で、こういった行動は異例なこと。実に後味の悪い雰囲気でゲームは終わった。
試合後、当事者の柳田球審は「ヘルメットに当たったと判断した」と説明。加藤は「前にも頭に当たったことがある。何が起こったのかな、という感じだった」とシラを切った。多田野は「だます方もだます方。だまされる方もだまされる方」とコメントした。
現行ルールでは、ビデオ判定を用いるのは本塁打性の打球のみ。この場合、映像で確認されることはない。審判も人の子で、見間違えることもあるだろう。しかし、審判もプロである以上、際どい投球ならともかく、明らかな誤審はいただけない。この疑惑の判定で、日本ハムは悪い流れになってしまった。このまま、巨人に敗退するようなことがあれば、禍根を残すことになりそうだ。
(落合一郎)