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愛知県西三河地方の怪異「幽霊が遺した片袖」

 愛知県岡崎市鴨田町にある九品院(くほんいん)は、法然上人三河第二十四番札所、三河三十三観音番外札所、新四国第二十三・二十四番札所にもなっている浄土宗の古刹である。

 昔から通称「荒井山さん」と呼ばれ親しまれている。文政11(1828)年、高僧・徳本行者の高弟・徳住上人の捨世・念仏道場として開創された。九品院の宝蔵には、幽霊がここに現れたという証拠に、持参した片袖と片袖の引きちぎられた着物が大切に保管されている(非公開)。
 嘉永5(1852)年のことである。若くして頓死した常蔵という人物の幽霊が、「死後九年経ても成仏できない」と、両親ではなく兄嫁の枕元に現れ訴えた。しかし、両親は一周忌はもとより、七回忌の法会まできちんと執り行っていた。「そんな話はにわかには信じられない」と、両親は疑った。「何か証拠でもあれば方策もあるだろう」と困惑していた。
 その疑念に応えるかのように、常蔵の幽霊は再び兄嫁の枕元に現れた。「親の供養は世間の慣わしであって、金は使っても心から供養してくれたわけではない。だから成仏できないでいるのだ」と訴えた。そして、自分がここに現れたという証拠に、着物の片袖を遺して消えた。両親がその片袖を調べてみると、厳重に施錠された蔵の長持ちの中にしまわれていた常蔵の着物から引きちぎられたものであったことが判った。

 その後、常蔵を不憫に思った兄夫婦は、九品院で7日間の籠山念仏行を行い、また、常蔵が生前信仰していた岩津天神への参拝も行った。その夜、全身金色の身体になった常蔵が、兄夫婦の枕元に礼を言いに現れたという。常蔵の両親は、片袖と片袖の引きちぎられた着物を幽霊が持参したという証拠として、九品院に奉納した。

(皆月斜 山口敏太郎事務所)

参照 山口敏太郎公式ブログ「妖怪王」
http://blog.goo.ne.jp/youkaiou

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