表向きの導入理由は、環境対策。温室効果ガスを出さない原発を優遇して、環境対策を強化しようというもの。ニューヨーク州が導入している「ゼロ・エミッション・クレジット」という制度があり、原発の電気に1kWhあたり約1.9円を上乗せしていることがモデルになっている。
しかし、経産省が環境対策を目的にしていないことは、明らかだ。原発と同様に温室効果ガスを出さない太陽光発電を徹底的に弾圧してきているからだ。
福島第一原発の事故を受けて2012年に固定価格買い取り制度が導入されたときの産業用太陽光発電の買い取り価格は、1kWhあたり40円だった。その単価は毎年引き下げられ、今年度は18円と半額以下に下がっている。さらに引き下げは続き、2030年には7円まで下がる見通しを経産省は出している。
そして、経産省は2021年度以降、固定価格買い取り制度自体を見直そうとしている。つまり再生可能エネルギー推進をやめて、原発推進に大きく舵を切り替えようとしているのだ。
原発推進は、消費者に安い電気を届けるためのものではない。すでに、再生可能エネルギーのほうが、原発よりもコスト安になるのが確実になっているからだ。コストが合わないからこそ経産省は、原発に補助金を出そうとしている。
日本の産業力強化のためかというと、そうでもない。現に東芝は、米国での原発事業が本体の経営を揺るがすほどの莫大な赤字を生み出したことで、虎の子の東芝メモリを売却し、原発輸出から撤退している。日立製作所も、今年1月に英国で進めてきた原発建設計画を凍結することを決めた。三菱重工がトルコで進める原発建設も暗礁に乗り上げている。もはや日本の原子力発電が産業として発展していく可能性は、完全に失われているのだ。
それなのに、経産省はなぜ原発を推進しようとするのか。答えは、たった一つ。米国が核兵器を製造するためには、どうしても国内に原子力発電を保有し続けなければならないからだ。しかも、その原子力発電を、日本の重電各社が技術面で支えている。だから、国内の原発で腕を磨き続けることで、米国の核開発を支えていく必要があるのだ。
だが、国民は本当にそんな道を望んでいるのだろうか。国内で原発を続ければ、高い電気代が降りかかってくる。南海トラフ地震が近づく中、福島第一原発のような事故が繰り返される可能性も否定できない。
何より、日本は唯一の核兵器による被爆国として、核なき世界を望んでいたのではないだろうか。
福島第一原発の事故直後は、自民党も含めてすべての政党が、「原発依存度をできるだけ下げていく」方向の政策を掲げた。形式的には、それは一切変更されていない。しかし、現実はどんどん原発推進、そして、米国の核兵器支援に傾いている。その是非を参議院選挙の争点にすべきだろう。