さて、この日はなぜか、馴染みの客引きが少ない。当てにしていた客引き(20)がないのです。先日、「今度、会ったら、絶対来てくださいよ」と言っていたから、こちらから声をかけてみよと思ったのに。
どうやら、営業停止の処分をくらったようです。後日わかることですが、理由は客引き行為です。なぜ、だめなのか? といえば、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」、いわゆる「迷惑防止条例」の中に、客引きの禁止規定があるからだ。
繁華街で遊んでいる人ならわかるが、実際には行われているケースがほとんどだ。そのため、罰則規定をみえると、常習者への違反行為だけが取り締まり対象になっている。顔見知りの客引きがよく逮捕されていたりもした。ある客引きは逮捕されるたびに、実家へ帰ったりしたものだ.どんな客引きがダメで、どれがOKなのかは実際には警察の運用によるところが大きい。
話を戻そう。
結局、別の顔なじみの客引きを見つけて、ある店に行くことにした。私は最初に着いた嬢(21)を指名したまま、2時間を過ごした。なぜ、そうしたのか。後の反省会でも言ったのだが、初めての店の場合、その店の嬢がどんな人かは未知数だ。
だから、入店時に女の子をチェックし、平均値を予測した。そして、5人もいるのだから、嬢が5人着く。そのとき、想像した平均値が当たっているかの修正もできる。なおかつ、周辺にも嬢がいるのだから、「この店はこんな感じ」というのがわかる。
私の隣には、想像した中では、この店の平均値以上の嬢が座った。そのとき、他の4人を見て、「これを逃したら、この嬢より期待値が低い嬢しかいないかもしれない」と判断した私は、その嬢を指名することにした。
心配していた知人(30代)は、ちょっと見たところ、馴染んでいたようなので、私は放置する方針を決めた。しかし、店を出たとき、「期待はずれだった」というのだ。どうした、ことか。
「いや。外れました。3人目の子なんか、アイドルの話しかしない。『そうだね』と聞いているふりをすると、どんどんその話になる。苦痛だったんですよ」
そうだったのか。隣で見ているだけでは、楽しんでいるかどうかはわからないものです。私は、今夜ののりは、恋人気分で行こうと途中でなって、友達飲みの感じでもよかったのですが、顔が好みだったので、やや口説きモードで過ごしていた。
すると、別の知人が、店員を呼んで耳打ちを始めた。何をしているのだろうか、と思っていると、知人の横には、最初に着いた嬢が戻ってきた。私は、その知人がなぜ、その嬢を指名したのかが理解できなかった。後で聞いてみると、
「2人目が着いてみて、また、周囲を観察してみて、なんとかくこの店の雰囲気がわかった。だから、自分にとっての『当たり』はやってこないと思った。だとしたら、最低限のサービスができる嬢を選ぶしかない、と思った」
と話していた。さすが、キャバクラに行き慣れている知人だけに、店内の過ごし方を心得ている、と思った。たくさんの店があり、そして、たくさんの嬢がいる。そこで、自分にとっての「当たり券」を引くことができればラッキーだが、店に「当たり」がない場合、どんな過ごし方をするのかは、人ぞれぞれ。失敗を重ねることで、学ぶところも多いはず。
私の判断も、できるだけ、失敗しない店内の過ごし方のつもりだが、ときどき、失敗する。そんな夜があるからこそ、「当たり券」を引いたときには喜びが深い。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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