ついさっきまで、同じボックスに付いていた女の子が不思議そうな顔をのぞかせて聞いてきた。
「総合商社にお勤めの方だけど」
「総合商社ってことは、普通のサラリーマンですか?」
「そうだけど、どうして?」
再び彼女が不思議そうな顔で聞いてくるので、おもわず、私も聞き返してしまった。
「いや、美代子さんがお客さんというより、ひとりの男性として大切そうに接客をしていたので、どこかの偉いさんなのかなと思いまして…」
「あら、そんなんじゃないわよ」
「もちろんわかってるんです。美代子さんがお金や肩書きでお客さんを見ない人だってことは。でも、昔からの知り合いって感じでもないのに、どうしてかなと…」
彼女も、悪気があってこんなことを聞いているのではない。それくらいわかる。ただ単純に気になっただけなんだと思う。お金や肩書きもなく、長い付き合いでもないお客さんを、私が特別に見てしまう理由。
「彼が普通のサラリーマンだからよ」
「どういうことですか?」
「このお仕事ってね、お給料はたくさんいただけるけど、それ相応の楽しみをお客さんにしてもらわないといけないわけでしょ? それってすごく難しいことだと思うのよね」
「それは、わかります」
私の話に合わせて、彼女も相づちを打つ。
「でも、楽して儲けてるんじゃないか? なんて言う人もいれば、元を取ろうと安い時間帯にきてアフターに誘うことばかり考えてる人もいるじゃない。でも彼は、普通のサラリーマンだからこそ、そんなホステスの辛さをわかってくれるの」
「サラリーマンだから?」
「そう、お金を稼ぐことの大変さを誰よりもわかっているからこそ、理解してくれるのよ。だから、お金や肩書きを持っている人じゃなく、私たちの辛さをわかってくれる人をあなたも見つけないといけないわね」
取材・構成/LISA
アパレル企業での販売・営業、ホステス、パーティーレセプタントを経て、会話術のノウハウをいちから学ぶ。ファッションや恋愛心理に関する連載コラムをはじめ、エッセイや小説、メディア取材など幅広い分野で活動中。
http://ameblo.jp/lisa-ism9281/