「巨人は完全にフライングだったね。今になって『しまった』と地団駄踏んでいるだろうね。菊池は正真正銘、10年に一度くらいしか出てこない逸材だからね。150キロのストレートとスライダーは素晴らしい。1年目から勝てる。長野は2度もドラフト指名を拒否して、年齢的にも実力が落ちてきている。何も1位でなくとも取れるのに。2位でも3位でもいい。もう手を出すところはないよ」他球団のスカウトたちがこう巨人のフライングを笑っている。
今年の選抜大会で一躍名を売った花巻東の左腕・菊池。「僕の生命線は直球」と言い切り、いきなりあわや完全試合という快投を演じてスカウトたちの目を奪った怪腕は、準優勝してその実力をいかんなく発揮した。
「記録よりもチームの勝利が大事」と宣言した菊池が、夏の甲子園でさらに成長した姿を披露して優勝すれば、名実共にスーパースターへの道を歩むことになる。
V9以来というリーグ3連覇を目指している巨人にとっても、ニュースターはノドから手が出るほど欲しい。
ドラフト1位ルーキーの大田泰示(東海大相模高)にヤンキース・松井秀喜の巨人時代の55番を与えたり、シーズン途中で一軍昇格させたりしたのも、ニュースター誕生を渇望しているからだ。10年に一人の逸材といわれる、150キロ左腕の菊池はまさに巨人にとって、これ以上ない救世主だろう。
ところが、選抜大会が始まる前の2月に巨人・清武代表がホンダ側に対し、「巨人軍としては1位指名する方針。少し早いが、退くことはない」と明言してしまっている。日大時代に「巨人以外には行かない」と宣言した長野は2006年の大学・社会人ドラフトで日本ハムに4巡目指名されたが拒否。
ホンダに入社して昨年の統一ドラフトで巨人の指名を待ったが、東海大進学を口にしていた大田がプロ入り宣言したために、巨人は大田を1位指名。長野はロッテに2位指名され、再び入団拒否をした経緯がある。2度のドラフトで意中の巨人入りできなかった長野の気持ちをくんで、今年は1位で指名するというのが巨人の方針だが、前述の通り、他球団は万々歳だ。
ライバル球団が一つでも減れば、当たりクジの確率は高くなる。巨人が菊池争奪戦からいち早く撤退してくれて、しかも1位候補でない長野を1位指名してくれるのだから、言うことなしだろう。
「いざとなれば、巨人のことだから、菊池を1位指名するのではないか。長野には1位待遇をして2位指名で取るとか…」という球界関係者もいるが、責任ある球団代表が明言したのだから、道義的に前言撤回はできないだろう。
スカウトの発言なら「最終的に球団トップの決断で1位指名が変わってしまいました」と釈明できるが、今回はそうはいかない。完全フライングの巨人軍。地団駄を踏んでも、後の祭りだ。夏の甲子園大会が菊池の快投でお祭り騒ぎになったら、巨人には目の毒、気の毒と言うしかないだろう。
<プロフィール>
菊池雄星(きくち・ゆうせい)1991年6月17日生まれ、岩手県盛岡市出身、18歳。小学生から一塁手として野球を始め、中学1年生から投手に転向。花巻東進学後、1年時に背番号「17」で夏の甲子園に出場。3年春の選抜で準優勝を果たす。1メートル84センチ、82キロ、左投げ右打ち。