私は、客引きと仲良くなるのも、キャバクラの楽しみのひとつだと思っています。仲良くなれば、指名なき場合は、安くなったり、好みの嬢を優先的に付けてくれる場合があるのです。場合によっては、他の店を紹介してくれたりもするのです。
ある客引きのAさんは、地方から上京してきたのですが、本当は、客引きをやろうと思っていたのではなく、寿司職人になりたくて出てきた、というのです。しかし、いつの間にか歌舞伎町で客を引いていた、というのです。
Aさんとの出会いは、偶然でした。Aさんのキャラクターを気に入って、案内する店に入ったことがあったのです。普通はそれだけで関係になることが多いです。しかし、Aさんは人懐っこいキャラであり、私が店長をしているバーに、客として、逆に誘ったのです。すると、Aさんは快く来てくれました。それからというもの、仲良くなり、職場を移るたびに、私はAさんの案内でキャバクラを選んだものです。
歌舞伎町などには、店の案内をしようとする「客引き」が多くいます。通りすがりの人をどのように「客」にさせていくのかのテクニックはそれなりに面白いのです。ある人は、特徴がある「声」で振り向かせたり、モノマネをしたりして、工夫していたりします。
しかし、最近は、Aさんのようなキャラクターで惹き付ける「客引き」が減ってきたように思います。
「キャバクラどうですか?」
という言葉を連呼するだけの人も増えました。また、セクシーパブを含めて、
「キャバクラ、おっぱい、ありますよ」
と、セクシーパブの象徴である「おっぱい」を付け加える場合もあります。さらに、飲食でははく、風俗店を含めて、
「キャバクラ、おっぱい、風俗、どうですか?」
と言うのですが、これでは節操がないように聞こえてしまいます。さらには、中には、嘘を言って惹き付ける人もいます。
「自衛隊パブありますよ」
ある客引きがこんなことを言いました。思わず、私は振り向いてしまいました。説明を求めると、
「オンナノコが自衛隊の制服を着ていて、ホフクゼンシンをするんですよ」
と言いました。そんなキャバクラがあるのか、と思い、つい行ってしまいました。しかし、それは、客引きの嘘。入ってみれば、普通のキャバクラよりもちょっと高めの店でした。制服はただのドレスです。そこで、嬢に、
「ここは自衛隊パブなの?」
と聞くと、「?」というような表情を見せていました。こんな客引きをしていたら、一見の客しか捕まえられませんよ。しかも、こうした客引きは、店から出てきても、知らぬ存ぜぬ、となってしまうのです。こうした客引きと出会うと、街に萎えてしまいます。
<プロフィール>
渋井哲也(しぶい てつや)フリーライター。ノンフィクション作家。栃木県生まれ。若者の生きづらさ(自殺、自傷、依存など)をテーマに取材するほか、ケータイ・ネット利用、教育、サブカルチャー、性、風俗、キャバクラなどに関心を持つ。近刊に「実録・闇サイト事件簿」(幻冬舎新書)や「解決!学校クレーム “理不尽”保護者の実態と対応実践」(河出書房新社)。他に、「明日、自殺しませんか 男女7人ネット心中」(幻冬舎文庫)、「ウェブ恋愛」(ちくま新書)、「学校裏サイト」(晋遊舎新書)など。
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