この作品は、子役時代の安達祐実が主演していることで有名で、当時はメディアミックス戦略が功を奏し、かなりのヒット作となった。『ジュラシック・パーク』を引き合いに出し、日米恐竜対決と煽る報道も当時あったような記憶がある。しかしこの映画、「恐竜」を題材とした映画なのに、恐竜である必要がまったくない作品なのだ。
ストーリーをざっくり解説すると、以前に紹介した『北京原人』とほぼ同じような展開で進む。それこそ北京原人がストーリーをパクったのではないかと疑うほどに。類似している部分を挙げると、「よくわからない設定で古代生物を復活させる」、「復活させたが、どう接するかで苦戦する」、「別の組織から横槍が入り、古代生物を奪おうとする」、「最後は本当の故郷があるからと、古代生物を原野に帰す」、「佐藤蛾次郎がよくわからない役で出演している」などだ。しかし、作品的には、“親子の絆”、“恐竜と少女の絆”というテーマが大枠としてあるので、『北京原人』よりは、遥かに映画として見られる作品にはなっている。しかし、このテーマなら、別に恐竜でなく、北京原人でも宇宙人でも、妖怪でもなんでも、とりあえず成立してしまうストーリーだ。
同時期に放映・放送された恐竜を題材にした作品には、それぞれ恐竜を扱う意味があった。『ジュラシック・パーク』では、最新の学説と、当時最先端の技術を使い、恐竜のリアルな描写を実現していた。さらには、それまでスポットが当たりずらかった「ヴェロキラプトル」などの、小・中型恐竜の知能の高さや獰猛さ細かく表現し、それらの恐竜の名前をメジャーなものとした。『ドラミちゃん ハロー恐竜キッズ!!』でも、当時の学説としては、恐竜の中では珍しく子育てをするといわれていた「マイアサウラ」にスポットを当て、しっかりとストーリーを組んでいる。『恐竜惑星』は、量子コンピューターの暴走により、人類とは別の世界で進化した恐竜人類たちと、ヴァーチャル世界を通じてどう向き合うかという、ハードSFな設定になっていながら、主な物語の舞台を、中生代を再現した地球という設定にし、当時の最新の学説を参考にした、三畳紀〜白亜紀までの恐竜を数多く出すことで、教育番組としての要素も持っている。
さらに、『それいけ!アンパンマン 恐竜ノッシーの大冒険』でも、完全に児童向けの作品でありながら、当時怖いイメージのあった恐竜を、童話のキャラクターにして、可愛らしく描くという意外性で勝負している。しかし、『REX 恐竜物語』はというと、主人公・千恵の父親である、古生物学者・立野昭良を演じる渡瀬恒彦が、場末の居酒屋で隣の席に「知ってるかぁ?」と絡んでくるオッサンのウンチクかと思う程度に、恐竜の学説を話すくらいだ。しかも恐竜の専門家のはずなのに、千恵や、その母親で、大竹しのぶ演じる伊藤直美が、肉食恐竜の子供と思われるレックスに、ピーマンを食事として与えることに、なんの疑問も挟まない。さらに、ムー大陸の古代文明や、アイヌの神の話など、ぶっ飛んだ設定が、説明もなく数多く登場するので、一体これはなんの映画だかわからなくなる。
最後の砦である恐竜・レックスの造形も、当時の技術であっても、もっと何とかなっただろうと思うような、微妙な造形だ。同時期の他の恐竜を題材にした他の作品には、大なり小なり、恐竜を活かして面白い作品作ろうという気概が感じられるのに対し、この作品には、とりあえず恐竜が流行っているから、なんか作ろうという雰囲気が、作品のそこかしこから伝わってくる。
恐竜という題材を持ちだした意味を問うと、この作品はかなり微妙だ。しかし、その設定に目をつぶれば、見どころはあるにはある。ひとつは、なんといっても子役離れした安達祐実の演技力だろう。各シーンでの動き方やセリフ回しなどは子役とは思えない、規格外の存在感を放つ。表情の作りかたも神がかっており、レックスを叱る際に威圧するように見下ろす時の表情は必見だ。
もうひとつは、劇中にレックス視点のシーンが結構あること。よく未知の生物と、子供の触れ合いを描く作品だと、子供側の視点を多用しがちだが、この作品では、レックスからの視点のシーンが効果的に使われており、レックス側も未知の世界にいるのだということを教えてくれる。細かい設定が気にならなければ、それなりに楽しめる作品だとは思う。特に子供に見せる映画として考えた場合は、ドタバタ劇やコミカルな描写もかなりあるので、退屈はしない作品にはなっている。あと最近では、恐竜に「鳥のような羽毛が生えていた」という説もあるので、リメイクすれば、羽毛でモフモフしたレックスの姿が可愛いと人気が出るかもしれない。だれもしないだろうけど…。
ちなみに同作の原作はムツゴロウさんこと、作家の畑正憲氏の『恐竜物語〜奇跡のラフティ〜』となっている。原作小説の方は、かなりシリアスな展開で評価は高いようだ。
(斎藤雅道=毎週金曜日に掲載)