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荒川雄太の西武オファーを見抜いたトライアウト受験投手たち

 もし、入団交渉のオファーがなかったら、どうするのか−−。11月10日に行われた『12球団合同トライアウト』で、そんな心苦しい質問もしなければならなかった。
 同日、当番球団だった埼玉西武ライオンズが配布した資料には、こう記してあった。

・カウントはすべて1&1から行う事
・すべて1OUTで行う事
・捕手は盗塁時セカンドスローを行う

 カウント『1ストライク1ボール』から、実戦形式のシート打撃が行われるルールは、改めて説明するまでもないだろう。限られたチャンスのなかで、自分をアピールするのは難しい。だが同日、野球センスの高さを見せつけた急造バッテリーもいた。多田野数人投手(30=北海度日本ハムファイターズ)と、荒川雄太捕手(22=福岡ソフトバンクホークス)だ。
 トライアウト後の囲み会見で、多田野はこう答えている。

 −−今日1日を振り返って?
 「自分に力がないとは思っていません。まだ通用すると思って(トライアウトを)受けました。そのアピールも出来たと思う」

 −−自信はあるか?
 「今日もスピードはさほど出ていなかったが、タイミングをずらしたりして、打ち損じを誘いました。まだ出来る。シーズン中にやっていれば、こんなことにならなかったんですがね…」

 多田野は打者4人と対戦し、三振1つを含む無安打。吉川元浩外野手(31)から奪った三振はストレートだったが、バックスクリーンに表示された数値は135キロ。変化球を2つ続けてからのストレート勝負であり、ウイニングショット前に放った『縦の緩い変化球』がいかに効果的であったかを印象づけた。
 一般論として、多田野のような技巧派投手をリードするのは難しい。まして、この多田野のボールを受けた荒川は「年下」である。
 「荒川には感謝しています。荒川に全てを任せて、こちらが(サインに)首を振ったら、すぐに球種を切り換えてくれました」
 多田野は荒川をそう評していた。
 一方の荒川は顔見知りのホークス番と長く喋り込み、囲み会見には応じていない。しかし、本柳も小林も規定人数の対戦を終えてマウンドを降りる際、荒川に「アリガトウ!」のシグナルを送っていた。

 12日のスポーツメディアによれば、FAで正捕手・細川亨(30)を見送った埼玉西武が、その荒川に「正式にオファーを出す」と伝えていた。荒川は本柳和也(34=オリックス)、小林雅英(36=巨人)ともバッテリーを組んだが、本柳には内角中心の配球、小林に対しては力勝負の投球をさせていた。配球の巧さが球団編成員の目に留まったのだろう。しかし、それを見抜いた多田野も並の投手ではない。多田野は「もし、オファーがなかったら?」の各メディアの質問に、
 「これから考えていきます。今のところは(予定が)ないです…」
 と返し、唇を噛んだ。
 過去のトライアウト受験者によれば、「会場には2通りの選手がいる」という。現役続行にこだわり、必死になる者と「自分自身に諦めを付けさせるため」に受験する者…。今回の受験者は前者のタイプが多かった。トライアウトを視察した球団職員が言う。
 「まだ出来ると思う選手は何人かいました。ただ、上とも話し合わなければいけないので、それ以上は…。各球団に編成担当の職員がいて、解雇直後にオファーがなかったということは、今日の受験選手はみんな非常に厳しい立場にあったわけです。ドラフトも終わったばかりだからね…。でも、こちらがシーズン中に評価していた以上に動ける選手もいましたので、後は球団と相談してから」

 独立リーグの関係者も視察に訪れており、彼らはプロ野球各チームのオファーが終わるころを見計らってから、選手に連絡を入れたいとしていた。独立リーグ、海外3A以下のチームを経て再受験する選手も珍しくなくなった。NPBが会員に発行している小冊子によれば、現役プロ野球選手の7割以上が「将来が不安だ」と答えていた。トライアウトで高評価を受けても、チームの編成上の理由で獲得が見送られる選手もいるという。“解雇通告を免れた”現役選手たちが「トライアウトを直視できない」とこぼす心境も分からなくはない。(スポーツライター・美山和也)

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