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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第334回続アベ・ショック

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提供:週刊実話

 10月1日に消費税が増税されるが、その後の景気失速、あるいは「経済危機」について、財務省や安倍政権は間違いなく“外国”に責任を押し付けようとする。1997年の消費税増税による「消費縮小」を中心とした景気失速は、なぜか「アジア通貨危機」のせいにされた。緊縮財政による悪影響を、外的要因に押し付けるというのは、財務省のお家芸なのである。

 ’97年4月の消費税増税による消費縮小は、1997年4―6月期に始まった。アジア通貨危機が勃発したのは1997年7月であるため、日本国民は、「7月からアジア通貨危機で世界経済が混乱するから、今のうちに消費を控えよう」と、神をも超える洞察力を発揮し、4月時点で消費を控え始めたことになる。バカバカしい限りだ。

 さて、現在、日本は内部要因である五輪不況、消費税増税、残業規制など、外部要因である米中覇権戦争、欧州経済失速、ブレグジットなどと、複数の経済的なリスクを抱えており、残念ながら2020年の「アベ・ショック」は避けられそうにない。

 実は現在、主要国の国債金利が異常な状況になっている。長期金利で見ると、日本が▲0.2%、スイスが▲1.08。この辺りは長期金利マイナスの常連なのだが、加えて、ドイツ▲0.688%、フランス▲0.413%、オランダ▲0.57%。日本の長期金利が“高く”見えてしまう有様なのだ。

 長期金利がマイナスに陥っていない欧州諸国にしても、イギリスが+0・46%、スペイン+0.07%、ポルトガル+0.09%、ギリシャ+1.93%(!)。’14年に財政破綻したギリシャの長期金利が、2%を割っている。

 アメリカの長期金利は+1.55%で、これも相当に低水準だが、ギリシャが接近してきている。世界は完全に「資金需要不足」の状況に陥りつつあるのだ。

 すでにドイツの4―6月期の経済成長率はマイナスに落ち込んでいる。ドイツは財政均衡を“憲法”に書いている、ブキャナニスト(ジェームズ・M・ブキャナンの信者)だ。“そのドイツ”が、財政赤字の拡大を示唆するような事態になっている。

 ドイツの景況感(PMIベース)は、2018年初頭は60を上回っていたのが、一気に落ち込み、すでに45を切った。特に、輸出依存度が高いドイツは、輸出低迷(伸び率がほぼゼロ)の影響をもろに受けてしまった。

 流石に、勘違いしている読者は少ないだろうが、ドイツは日本をはるかに上回る輸出依存国である。同時に、日本は相対的に輸出依存国ではない。

 最近のドイツは、輸出依存度40%弱で高止まりしており、外需縮小の影響を受けやすい立場にある。そのドイツが、輸出低迷で景気失速に陥ったということは、今後の世界経済の「方向」を明確に示してくれる。

 すでに、日本でも外需縮小の影響は出始めている。財務省が8月19日発表した7月の貿易統計によると、輸出から輸入を差し引いた貿易収支が2496億円の赤字。日本の貿易収支が赤字に落ち込んだのは、2カ月ぶりである。米中覇権戦争を背景にした中国経済の失速が響き、中国向けの輸出が大きく落ち込んだためだ。

 日本は貿易収支が赤字化しても、所得収支の黒字が巨額(何しろ世界最大の対外純資産国である)であるため、経常収支が赤字になることは、まず考えられない。

 さらに、日本の場合、GDPの15%にも満たない財の輸出が多少低迷したところで、政府が「国民を豊かにする」ために財政を拡大し、内需牽引型の経済成長を目指せば、それで話は済む。ところが、現実の日本は緊縮財政だ。

 消費税増税やPB黒字化目標、政府支出削減で内需を痛めつけ、そこに米中覇権戦争、欧州経済失速の影響が覆いかぶさり、「アベ・ショック」と、歴史的に呼ばれることになる経済危機に陥る。それでも財務省や政権は自らの緊縮財政の責任は一切認めず、「米中覇権戦争や欧州経済危機の影響で、日本経済も失速した」と言い訳する確率が100%なのだ。

 ブンデスバンク(ドイツ連邦銀行)は、8月19日に公表した8月月報で、ドイツ経済の2019年7―9月期が2四半期連続のマイナスになる可能性があると警告。2四半期連続のマイナス成長とは、要はリセッション突入という話だ。

 ブンデスバンクは現在のドイツ経済の落ち込みについて、偶発的なものではなく、弱い状態が当面は続く深刻な事態が起きていると分析している。

 ドイツで輸出や生産の低迷が続くと、国内の消費や投資に悪影響が広がり、ユーロ全域が「不況」に陥らざるを得ない。

 8月18日、ドイツのショルツ財務大臣は、自国に「将来の経済危機に総力を挙げて対処する健全な財政」が存在するとの見方を示した。同時に、最大500億ユーロ(約5.2兆円)の追加支出が可能であることを示唆。

 正直、ドイツが5兆円規模の追加支出をしたところで、ユーロ全域を救うには力不足で、そもそもドイツ経済は「輸出次第」の構造を持っているため、内需拡大にどれほど効果があるのか疑問なのだが、それにしても、「あの、財政均衡を憲法に書いているドイツ」ですら、赤字財政の「拡大(一応)」を宣言せざるを得ないわけだ。この状況で、本当に我が国は消費税を増税するのか。

 2019年10月以降の日本は、消費税増税、五輪不況、そして世界経済の低迷というトリプル・ショックを受け、日本は「経済危機」、すなわち“アベ・ショック”に突入することになる。アベ・ショックの責任を、“外国”に押し付けてはならない。日本は「政府の失策」により、経済危機に突入するのだ。

 事実を“歴史”に残し、将来的に緊縮財政路線からの転換を図るためにも、我々は「次なる経済危機は、安倍政権の責任である」ことを事前に知る必要があるのである。

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みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。

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