桐光学園・松井裕樹(左投左打)の将来性を疑う声は1つも聞かれない。昨夏の甲子園デビュー以降、その右打者の膝元を襲うスライダーは「すでにプロのレベルに到達している」とされ、一学年上の藤浪晋太郎、大谷翔平と比べても勝るとも劣らない評価をされてきた。
その松井が今夏の神奈川県予選準々決勝で横浜高校に敗れたときだった。核心である『卒業後の進路』について、各メディアから質問を受けた。
「(まだ試合を終えた直後なので)考えられない…」
その言葉にウソはないだろう。また、甲子園出場という夢を打ち砕かれた直後でもあり、人生の岐路について冷静に考え直す時間も欲しかったのではないだろうか。
しかし、このクラスの左腕投手になると、“キレイごと”だけでは世の中は渡っていけないようである。
「プロ入りするのか、しないのか…。後者だとしても、進学か、社会人チームに進むのか、そろそろハッキリさせないと、相手にも失礼になる」(関係者)
学校関係者によれば、松井のもとには複数の大学、社会人チームが来ているという。だが、一部の地方大学が甲子園大会の終了を待たずに『野球部のセレクション』を始めているように、勧誘する側にも“都合”がある。一般論として、大学、社会人には限られた推薦・獲得の人数枠しか持っていない。松井が来ないのであれば、その貴重な人数枠を他球児にまわさなければならない。松井も迷っているとは思うが、「行かないなら、行かない」で一日でも早く返答する必要があるのだ。
こんな情報もキャッチした。
「今年5月の連休明けに、桐光は(学校行事として)進路に関する三者面談を設けています。その面談前後、12球団スカウトは松井クンの進路希望を確認しようと学校の周りをウロついていたのですが、結論は『保留』。夏の甲子園大会後に正式回答すると、松井クンだけ、曖昧な返答に終わっています」(前出・関係者)
桐光OBが東京六大学リーグでキャプテンを務めている。また、そのキャプテンのいる大学とライバル関係にある大学にも桐光出身がいて、同関係者によれば、松井はその両OBに信頼を寄せており、「個別に相談もしている」(事情通)とも聞かされているそうだ。
「松井の進路に強い影響力を持つ人物がいるとしたら、同校のN監督ではないだろうか。N監督も東京六大学の出身という経歴も気になる…」(在阪球団スカウト)
昨秋の公式戦終了から、松井は「基礎体力(筋力)のアップ」に重点を置いたトレーニングを積み重ねてきた。卒業後も野球を続けるためだろう。
彼の将来性を疑う声は聞かれなかったが、「あえて注文を付けるとしたら」と前置きし、こう語るスカウトもいた。
「欲を言えば、真っ直ぐがもう少し速ければ…。高校レベルなら問題ないが、得意のスライダーを見送られた場合、プロ野球では真っ直ぐを狙い打ちされる危険性がある。でも、3年生になって、チェンジアップ系の変化球を新しく覚えたようだね。スライダーをより際立たせるための投球術であり、低めにそのチェンジアップ系の変化球を集めようと意識しているのも分かる」(在京球団スカウト)
『チェンジアップ系の変化球=緩急』と解釈すると、ストレートがあまり速くないという自身の弱点を補う意味合いもあったのではないだろうか。
こうした実戦的配球から「プロ入り後を意識している」と見る声もあるが、同校からいきなりプロ入りした選手はまだいない。また、信頼する監督や先輩たちの影響も無視できない。進学率の高い高校に在籍しているからか、12球団スカウトは慎重に対応しているようである。(敬称略)