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プロ野球退団組に明るい希望 高校野球指導者条件が大幅に緩和へ

 NPB(日本野球機構)と日本学生野球協会が1月17日、プロ野球経験者が学生野球の指導者になるための規定を話し合う「学生野球資格に関する協議会」を開き、学生側は高校野球の指導者になるための規定を大幅に緩和する案をNPBに提示した。これで、「柳川事件」から50年以上続いたプロ、アマの交流断絶が歴史的な雪解けとなる。

 「柳川事件」とはプロ、アマ間の関係が悪化するきっかけとなった事件。プロ野球は日本社会人野球協会と協約を締結していたが、プロ退団者の登録時期や人数制限などで紛糾。プロ側が61年4月に同協約を破棄。直後にシーズン中でありながら、中日が日本生命の柳川福三外野手を獲得。社会人側はプロとの断絶を決め、日本学生野球協会もこれに同調し、プロとアマの確執が始まった。

 これまで、プロ野球経験者が高校野球の監督などの指導者になるためには、「中学、高校で2年の教諭歴」という高いハードルがあったが、学生側はこれを撤廃。NPBの研修を受けた上で、日本学生野球協会が公認する研修制度を受講すれば、学生野球資格の回復が認定されることになった。

 アマ側の研修は「校内における部活動の位置づけ概論」など8項目あり、1項目に対して1時間、計8時間を3日間で行う方向。NPBの研修内容は今後詰められるが、2日程度の座学となる。アマの研修受講資格者はNPBの研修を受講した者で、かつ1球団につき5人が目安で1年に60人程度となる。早ければ、今年中に正式決定する見通しで、資格が取れれば翌日から指導者になれる。

 現行の制度で学生野球資格を回復し、高校野球の監督になったのは、甲子園出場も果たした元ダイエー(現ソフトバンク)で早鞆高(山口)の大越基氏(41)、今季より日本ハムのヘッドコーチに就任した前川越東高(埼玉)の阿井英二郎(48)などの例がある。いずれも、引退後に教員免許を取得するなど、高いハードルをクリアせざるを得なかった。

 大学や社会人では先んじて緩和されており、大学では05年にプロ退団後2年経過すれば、指導者への就任が可能となり、元広島監督の古葉竹識氏(76)が東京国際大、元中日の江藤省三氏(70)が慶応大の監督を務めており、元巨人の高橋善正氏(68)も中央大の指揮を執っていた。社会人では97年に元プロ選手の受け入れが決まり、02年から指導者に就くことができるようになった。

 この規定緩和によるメリットは、学生側がこれまでより高いレベルの指導を受けられること。そして、プロ野球を引退、戦力外になった選手にとっては、高校野球指導者という新たな再就職口が大きく広がった点だ。

 NPBが11年10月に若手選手223人を対象に、「引退後、一番やってみたい仕事」というアンケートを取ったところ、1位は圧倒的に高校野球指導者で28.4%、以下、2位・飲食店開業=13.0%、3位・大学・社会人指導者=11.7%、4位・スカウト、スコアラー=11.1%、5位・プロ野球監督コーチ=8.6%だった。

 対象が若手だったということもあるが、多くのプロ野球選手がプロの指導者より高校野球の指導者になりたいと思っている現実を考慮すると、今回の規定緩和は学生野球側、プロ野球退団組側、双方に大きなメリットとなり、学生野球の底辺拡大につながる。

 これで、ルール上ではスター選手でも高校野球の監督に容易に就くことが可能となった。ただ、現実として、受け入れる高校側がスター選手に見合う「報酬」を用意できるかは疑問で、中堅クラス、2軍選手が高校野球の指導者に就任することが多くなりそうだ。いずれにせよ、今回の学生側の歩み寄りは、野球界全体の構造を大きく変えるきっかけになるだろう。
(落合一郎)

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