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民間に息づいていた陰陽師「おたゆうさん」

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 陰陽師と言えば、安倍晴明ら実在した人々の伝説が現代、創作の世界で登場することが多いが、現実世界にも陰陽師は存在する。

 現実に、晴明以来の流れを受け継ぐ正当な後継者は北陸に存在する。安部家は土御門と名称を変えて、北陸の地に根づいていたのだ。当然、陰陽道を受け継いでいる。

 しかし、歴史上あった数回の断絶により、平安時代の黄金期の片鱗を見ることはできない。どうも後世に流入した密教の影響を強く受けているようだ。

 ある学者は、逆に民間に流失した陰陽道の一派の方がその「霊脈」を受け継いでいるという。

 奈良・平安以降、いや、卑弥呼の時代から呪術は施政者の武器であった。言い換えれば、テクノロジーとも言えよう。政府や権力者は呪術を独占することで、民衆を操作し、懐柔した。つまり、集団催眠には最も効果的な技術であったのだ。

 だが、民衆もばかではない。権力が隠匿する呪術体系をたびたび盗み出し、民衆側の技術に取り入れていった。その民衆側の呪術技術者が俗に言う民間の「陰陽師」であり、同時に後世において「忍者」と呼ばれる集団の先祖となった可能性が高い。

 さて、その民間陰陽道は四国にも渡来している。最も有名なのは、高知のイザナギ流であるが、徳島にも似た流儀を行う一派があったと聞いたことがある。少年時代に祖母に一度聞いただけであるが、その陰陽師は「おたゆうさん」 と呼ばれ、狐憑きを落としたり、未来の卦(け)を占ったりして生業を立てていた。

 某町の某家にキツネが憑いたときなどは、憑かれた本人が天井まで駆け上ったり大変な騒ぎとなったが、おたゆうさんが祈ると一発で落ちてしまったと伝え聞いた。

 今はそんなおたゆうさんの噂も聞かない。いよいよ民間の霊脈も絶えてしまったのであろうか。

(山口敏太郎)

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