リーチザクラウン、セイウンワンダー、そしてアンライバルドといった春の既成勢力を一瞬でなで斬りにした。一頭だけ次元の違う切れ味。イコピコの前走・神戸新聞杯は強烈なインパクトを残した。
「トライアルはポジションより折り合いを重視した競馬だった。先生からの指示通りの騎乗で、見事に勝ってくれましたね」。インフルエンザで休養を余儀なくされている西園調教師に代わり、攻め馬を付ける酒井騎手はそう振り返った。
昨年11月のデビュー戦が15着の惨敗。未勝利勝ちは3月と遅かった。体質が弱く、当時は体つきもキャシャだった。ヒョロッとした体形は、いかにも晩成型のステイヤー、父マンハッタンカフェの血を思わせたものだ。
持てる素質を発揮しきれずにいたため、クラシックには不出走。しかし、暖かくなって動きにキレと力強さが出てきた4月に500万、5月にはオープン特別の白百合Sを快勝して、秋に希望をつないだ。
「休ませて放牧から帰ってくるたびに成長している。入厩当初は体も目立たなかったけど、今ではしっかりして、成長力はすごいのひと言です」
もう、春のひ弱さはない。菊を制して超一流馬にのし上がった父と同じ上昇軌道をイコピコも走り始めている。それをはっきり示したのが神戸新聞杯だ。しかもレコードVの反動もない。1週前には栗東坂路で800メートルを52秒6。オープン馬のエイシンタイガーに1秒先着している。
「先生からは真っすぐ走らせてくれと。いい動きでした。ゴール前で気を抜くような面はあったけど、心配するほどじゃない。いい状態で出走できそうです」。手綱を取った酒井騎手も、本番に向けて万全の仕上がりを強調した。
3冠路線にこだわらなくなり、3歳馬の秋の選択肢が広がる流れのなか、今年もダービー馬ロジユニヴァースがジャパンC参戦を決めた。
イコピコにとっては、最強の敵がいなくなったことになる。昨年の覇者オウケンブルースリも、春は目立たず、一躍、菊花賞で頂点に立ったが、今年もその可能性がグンと高まったわけだ。
「今度は京都の三千メートルになるけど、リラックスして走れるのでまったく不安はない。前走内容からもチャンスは十分にあると思う」
イコピコという名はハワイ語で「頂上へ」。遅れてきた大器が、まさしく名を体で表そうとしている。