派遣法改正案が国会に提出されるのとタイミングを合わせて、維新、民主、生活の3党が、議員立法で「同一労働同一賃金推進法案」を提出した。同じ仕事をしている場合には、正社員と派遣労働者など、雇用形態が異なっても、賃金を同一にすることを義務付けようという法案だった。
同一労働同一賃金は、いまや世界の常識となっている。同一労働同一賃金さえ確保されていれば、派遣労働者の雇用が、派遣法改正によって不安定になったとしても、少なくとも雇われている間は、人並みの生活ができるだろうという目論みだった。
ところが、維新の党が裏切った。抜け駆けをして、単独で与党との法案修正協議を行い、当初案の「待遇の均等を図る」を「待遇の均等および均衡の実現」に修正してしまったのだ。
この文言修正によって、正社員と派遣社員は、同じ仕事をしていても職位や抱えている責任が異なるという理由で、同一賃金を保障する必要がなくなってしまった。完全な骨抜きだ。
もちろん、維新と水面下で交渉し同一労働同一賃金を葬り去ったのは、自民党だ。その自民党政権が、舌の根も乾かぬうちに、今度は自らの政策に採り入れると言っても、にわかには信じられない。だが、万が一、総理の決意が本当だとすると、私は日本の労働市場は革命的によくなると思っている。
同一労働同一賃金にするということは、パートやアルバイトの時給を正社員に揃えるということだ。いまの正社員の時給は2000円程度だから、同一労働同一賃金にするためには、パート・アルバイトの時給を倍増させるということになる。
それだけの時給がもらえるのであれば、年間2000時間働けば年収400万円だ。十分、家族を養っていける年収だから、無理して正社員にこだわる必要がなくなるのだ。
そのことは、サラリーマン社会を根底から覆すだろう。これまで、クビになったら後がないと考えていたから、サラリーマンは理不尽な要求に耐えてきた。いつでも辞表が叩きつけられるようになれば、サラリーマンは、ストレスから解放されるのだ。
ただ、そこでひとつ心配がある。それは、安倍総理が「同一労働同一賃金」を、非正社員の時給を2倍にするのではなく、正社員のクビを切りやすくし、賃金も半分にして、非正社員と同じ処遇にしようと考えているのではないかということだ。それでも、「同一労働同一賃金」は達成できるのだ。
安倍政権は、手切れ金さえ払えば正社員をクビにできる「金銭解雇」を可能にする法案を整備する意向だという。だとすると、やはり、安倍総理の言う「同一労働同一賃金」は、正社員の非正社員化なのかもしれない。