なぜ米国が安倍総理をここまで歓迎するのか。それは、安倍総理の手土産が、非常に大きなものだったからだ。手土産は二つある。一つは自衛隊だ。日米両政府は、4月27日にニューヨークで外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)を開き「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)を18年ぶりに改定することで合意した。
これまで自衛隊が武力行使できるのは、日本が攻撃を受けたときだけだったが、米国が攻撃を受けたときにも武力行使ができるようにした。さらに、米軍への後方支援も、これまで日本周辺に限られていたものを地理的制限無しにした。政府は否定しているが、この改定によって自衛隊は、米国が始めた戦争に世界中どこにでも出かけて行って、一緒に戦えるようになったのだ。
世界中で紛争が頻発する中、米国はかつてのように世界の警察として秩序を維持する力を失っている。その補完を自衛隊が担うのだ。つまり、戦後の安全保障の中で、日本は戦争をしない国から戦争をする国へと大転換を図るのだ。
しかも問題は、集団的自衛権の行使については、まだ国会で議論が行われていないということだ。政府は、国権の最高機関での議論を無視して既成事実を作ってしまったのだ。
そして、安倍総理のもう一つの大きな手土産は、TPPだ。TPPに関しては、4月21日に日米閣僚協議が終了している。最後のヤマ場と言われたこの交渉では、日本が要求する米国へ輸出する自動車部品にかけられている2.5%の関税撤廃することと、米国が要求する米国産米の日本への輸入枠拡大が焦点だった。
日米両政府は、閣僚協議の終了後、「二国間の距離は相当狭まってきた」として、決着には至っていないものの、合意が近づいていることを匂わせた。ただ、私はすでに交渉は事実上妥結しているのではないかと考えている。日米首脳会談後の記者会見で安倍総理は、TPPについて「早期かつ成功裏に妥結することを確認した」と述べ、早期妥結に向けて合意したことを明らかにした。
TPPは、透明なルールの下で、自由経済圏を作るというのが建前になっているが、実態はそうではない。米国の利権拡大だ。例えば、今回の閣僚協議の交渉についても、アメリカが輸入する自動車部品の関税をゼロにしたところで、日本のメリットはほとんどない。例えば対米為替レートは、'12年の80円から'14年には106円となり、33%も円安が進んだが、自動車部品の対米輸出は、64万トンから61万トンへと、むしろ減少しているからだ。
一方で米国産米の日本への無税輸出枠を増やすことは、米国に確実なメリットがある。そのほかにTPPでは、金融や医療などさまざまな分野で日本経済へのダメージが見込まれている。安倍総理の国賓待遇は、日本国民の大きな将来負担の上に成り立っているのだ。