このように自分を客観視できる視点というのは、どの分野においても成功に直結していると推測できる。自分自身を対象物、或いは商品として冷静な視点で捉え、どの部分が補填すべき弱点であり、どの部分が伸ばすべき長所なのか、常にチェックできることは大きな武器になりうるのだ。つまり、他人の目線で自分に駄目出しができる人間ほど、強いものはないといえる。
筆者が経営する株式会社山口敏太郎タートルカンパニーには、ライター、作家、漫画家芸人、絵師、怪談師など様々な分野のプロフェッショナルを目指す若者が尋ねてくるが、大部分の人間が自意識過剰であったり、自己満足に過ぎない技量であったりして、採用にいたることはない。
実績が伴わない根拠の無い自信に満ちあふれた作家志望の若者や、商業的な価格が設定できない絵柄の絵師、自分を天才と思い込んでいる自己中心的な怪談師など、客観的視点を己の中に持ち合わせていない人間は、プロフェッショナルの世界では成功できない。結果、いつまでもアマチュアとプロフェッショナルの境界でさまようことになる(余談だが、この論説はアマチュアを中傷することが主眼ではない。アマチュアはアマチュアの良さがあり、プロフェッショナルはプロフェッショナルの良さがある。アマチュアでもなくプロフェッショナルでもない“中途半端な自分”に気がつかない、自意識が強すぎる“痛い人間”を問題視しているのだ)。
人間がその分野で成功するには、やはり己の無力を自覚することである。自分の無能を自覚し、何を補えば良いのか徹底的に考察する。先輩諸氏に比べ、自分の位置はこのあたりだと冷徹なまでに自覚し、上にあがるためにはどんな努力をしたらいいのか最短ルートを毎日考えればいいのだ。また、同世代で仕事やキャラの被っているライバルたちから頭ひとつ抜け出すためにも、何をしたらいいのかを日々考えればいいのだ。
この恐ろしくクールな姿勢が“プロのお仕事”において最も有効な武器になりうるのだ。
貴方は、自分を客観視できているだろうか。
(山口敏太郎)