2億8000万円の赤字見込みが3200万に圧縮されたのは、二つのうれしい誤算があったからだ。昨年の日本シリーズ(西武対巨人)が第7戦までもつれ込んだこと。もう一つは、3月のWBCで日本代表が連覇を果たし、優勝賞金310万ドル(約2億7900万円)を選手と折半した分の臨時収入。この二つがあったから3200万円の赤字で済んだが、今年の巨人対日本ハムの日本シリーズは第6戦で終わっているし、WBCは4年後にならないと開催されない。だから平成21年度(10月1日〜平成22年9月30日)の決算は3億円の赤字見込みになってしまう。
そこで、オーナー会議では、1球団年間7100万円の会費の値上げと、日本代表チームの常設による新たな財源獲得案がメーンになった。「会費の値上げはやむをえないだろう」というのが、オーナー会議の大勢だったという。が、「具体的にいくら値上げするかとか、数字は出なかった」とある球団のオーナーは素っ気なかった。本心は会費の値上げに反対だからだ。どこの球団も経営状態は苦しく、出費を少しでも抑えたい。が、NPBの財政危機は放置できないものになっているので、突き放すわけにもいかないジレンマだ。
「正直言って、1球団4000万円くらい会費の値上げをしてもらわないとやっていけないだろう」とNPB関係者が、苦しい台所事情の本音を漏らす。NPBの二大財源のオールスターと日本シリーズが窮地に陥っているからだ。オールスターは05年から始まったセ、パ交流戦の大きな影響を受け、商品価値が暴落している。「真剣勝負のセ、パ交流戦が盛り上がれば盛り上がるほど、セ、パのスター選手が一堂に会するだけの顔見せ興行のオールスターは人気が下がる。ナショナルリーグとアメリカンリーグの間でインターリーグをやり出した後のメジャーリーグでもそういう結果がはっきり出ている」。セ、パの交流戦が実現する際に、メジャー通の球界OBはズバリ予言した。そして、その言葉通りの結果になったのだ。
それにしても、今年のオールスターはショッキングだった。前代未聞の地上波テレビ局中継なしの危機に直面したからだ。昨年まで1試合1億2000万円の放映権料を4000万円も値下げして、8000万円に設定したのに、それでも7月23日、札幌ドームで開催のオールスター第1戦中継に名乗りを上げるテレビ局がなかなか出てこなかったのだ。
「こんなことは今までなかった非常事態だ。地上波テレビでオールスターが見られないなんてことになったら、その悪影響は計り知れない。野球人気がますます冷え込んでしまう」。NPB関係者が真っ青になり、頭を抱えたのは当たり前だし、中継に腰を引いたテレビ局関係者までがあまりの異常事態に驚きを隠せなかった。最終的には日本テレビ系列が中継、前代未聞の不祥事は回避されたが、第1部10.9%、第2部14.8%、平均12.9%という視聴率だった。広島の新本拠地・マツダスタジアムで行われた第2戦を中継したTBSテレビ系の視聴率は11.7%と、第1戦を下回っている。
商品価値が急落したオールスターは、テレビ中継問題にとどまらず、冠スポンサーという重大問題も抱えている。1988年から2006年まで年間協賛金3億4000万円を提供してくれた三洋電機が、経営不振から降板したことで、一気に新冠スポンサー探しの難題が持ち上がったのだ。「大丈夫ですよ。三洋電機がスポンサーから降りても、オールスターの冠スポンサーになりたい企業はいくらでもある」。元NPB関係者はこう豪語していたが、平成大不況の世の中は、そうは甘くなかった。2007年にはヤンキース・松井秀喜のCM出演で知られる、中古車販売最大手のガリバーが冠スポンサーになったものの、1年きりで降板。08年は新車を売り出すタイミングということで、今年は地元・広島の新球場・マツダスタジアムでオールスター開催ということから2年連続してマツダが新スポンサーになったが、来年以降は完全に白紙の状態だ。
しかも、来年の日本シリーズから冠スポンサーをつけることになっているのだ。「日本プロ野球界で一番権威のあるイベントの日本シリーズに冠スポンサーをつけるなんてとんでもない」と言っていた古きよき時代もあったのだが、今やなりふり構わっていられない新財源のスポンサー探しだ。というのも、オールスターの放映権料の大幅値下げは、日本シリーズにモロに波及しているからだ。「オールスターの放映権料値下げは、嫌でも日本シリーズに響いてくるだろう」というNPB関係者の危ぐした通りだった。1試合1億3500万円の日本シリーズの放映権料は9000万円にダウンしたといわれている。6試合戦った巨人対日本ハムのシリーズの放映権料は合計2億7000万円の減収だ。それだけに、冠スポンサー探しは死活問題になっているのだ。
(つづく)