日本では引っ越しを検討したら、不動産屋に行き、物件を紹介してもらってその中から決めるというのが一般的だ。しかしドイツの場合、借りる側にあまり選択肢はない。というのも、州によっては年間の最大建築数が既存の物件数の2%までと規制されているため、住宅の数がそもそも少ない。農村や郊外でない限り、家を見つけることは困難なのだ。最近では仕事を求めて近隣諸国からドイツに移住する人も増えており、さらに住宅が不足しまう原因となっている。ドイツにも不動産屋は多いが、不動産屋は高級物件ばかりを扱っているため利用する人が少ないようだ。
たいていの場合、大家が物件をインターネットに公開して借主を募集し、家を借りたい人が応募する仕組みだ。しかし、一つの募集に致して100件以上の応募のメールがあり争奪戦である。誰に貸すかは大家が受け取ったメールからある程度の人数を絞り、絞られた人たちと面接をして決めることが多い。隣人に迷惑を掛けることはなさそうか、きちんと家賃を払ってくれそうかという点を踏まえ、決定されるのだ。
なお、ドイツの平均家賃は、首都・ベルリンの場合、90平方メートルの1DKで974ユーロ(約12万円)ほどで東京の都心よりも割高だ。日本のように、2年ごとに契約更新料を支払うような仕組みはないが、入居時に家賃の1〜2か月程度の敷金は支払う。敷金は、退去時、原状回復にかかった分の費用は支払うがそれ以外は戻ってくることが多く、そこは日本と同様だ。
なお、家族で住む場合、一軒家を買うという選択肢もあるが、ドイツで最も使われている物件サイト『ImmoScout24』を見ると、4LDKで、日本円に換算して1億円近い物件が並ぶ。現在ドイツは、住宅の値段が急激に上がっているため、近頃はあまり一軒家の購入を考えることは現実的ではないようだ。
また引っ越しが決まっても、すぐに生活環境が整うわけではない。日本でも電気や家具などある程度のものを揃えなければならないが、ドイツの場合は電気や家具に加え、キッチンも必要だ。多くの場合、ドイツではキッチンごと引っ越すので、引っ越し先の住居にキッチンがないというケースが多い。そのため、新居を見つけたら、キッチンも購入し、取り付けてもらう必要がある。
さらに、実際に住み始めてからもドイツは日本と違う文化がある。日本の場合、借主が別の人に家を貸す「転貸」は、賃貸契約で禁止となっている場合がほとんどだ。しかしドイツは、「転貸」が自由である。基本的には大家の許可があれば、借主の判断で別の人に貸すことができ、長期の留守の間、家を貸す人が多い。ドイツ人は1か月ほどの長期休暇を取るため、借りる側にとっても都合がよく、特に短期留学生などには便利なシステムのようだ。また、貸す側も臨時収入を得られるメリットがある。
ドイツでは、物件に限りがあり、必ずしも希望の家に住むことができるとは限らないようだ。日本の住宅は狭くて高いという印象があるが、その土地ごとにそれぞれの苦労があるのだろう。