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【不朽の名作】内容はメチャクチャだがアクションシーンが映える時代劇「里見八犬伝」

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 今回は深作欣二監督作品の『里見八犬伝』(1983年公開)を紹介する。『里見八犬伝』をモチーフとした作品は、本作以前にも何度も舞台化・映像化されているが、同作は、それまでとは大きく違うアプローチをした作品として有名だ。まず江戸時代からある読み物としての『南総里見八犬伝』とは作品の内容が大きく違っている。

 作品形式としては、時代劇扱いなのだが、いきなり小気味良いロック調BGMで始まるなど斬新だ。その他の場面でも随所に洋楽風のBGMが使われており、当時角川春樹事務所製作の映画らしい、新しい映像作りの努力がみられる。

 また、首が切られて飛ぶシーンや、老婆がムカデに変わるシーンなど若干ショッキングなシーンがあるのも、この時代の角川春樹事務所製作映画の特徴だ。

 アクション面でもかなり派手になっている。JAC(ジャパンアクションエンタープライズ)全面協力による殺陣シーンは圧巻の一言。犬江親兵衛役の真田広之や犬坂毛野役の志穂美悦子など、当時JACに所属していた俳優の、全盛期のキレキレな動きが堪能できる。もちろん、千葉真一も犬山道節役で登場している。また、無駄に広いセットのおかげで、多人数で入り乱れての乱戦シーンも映える。アクションシーンだけに注目すれば、今の邦画ではなかなかお目にかかれない派手さだろう。セットのチャチさとか、微妙なモンスター描写など、そういった負のイメージが吹き飛ぶほどに。

 視覚的に印象的なシーンもある。毛野と犬塚信乃(京本政樹)の初登場は、桜吹雪でのアクションシーンで、生首をもった毛野がかなり美しい。ヒロインの静姫を演じる薬師丸ひろ子も、かなりお姫様している。親兵衛とのラブシーンは、今観ても強烈だろう。当時アイドル的な扱いだった薬師丸なのに、やたらとこのシーンが長い。

 敵側である闇の軍団こと蟇田一門の、わざとらしく、いかにも悪の組織らしいセットや、演者の過度なまでに悪役を意識した演じぶりなど、『仮面ライダー』のような特撮作品を思わせる楽しい仕掛けだらけだ。雑魚敵の叫び声も微妙にショッカーの戦闘員っぽい。また、玉梓役の夏木マリのキャラが印象的で、主人公サイドのキャラの印象が薄れるほど、悪の組織の女幹部感が半端ない。途中術が溶けてババァ化した際に、血の池につかり容姿を回復するシーンではプリケツまで披露するサービスぶりだ。

 ストーリー的に勧善懲悪で非常に単純。自分を残して一族を皆殺しにされた静姫が、伝説にある伏姫の体から放たれた、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字のある数珠の玉を持つ、8人の仲間(八剣士)を集めて悪の軍団を倒すというものだ。伏姫の伝説についても、話の進行で明らかになるなどの、面倒なひねりは入れず、全て序盤のセリフで説明しているあたりがかなり潔い。小難しいこと抜きで、シンプルに映像を楽しむエンターテインメント映画としては完璧だろう。

 が、里見の八剣士が揃うのにかなり時間がかかる、というか明らかに長い。「もう、5人くらいでいいんじゃね?」と感じるほどに。8人の剣士それぞれにスポットを当てる時間も少なく、後半に仲間になる犬飼現八(大葉健二)、犬川荘助(福原拓也)、犬田小文吾(苅谷俊介)あたりは、どんな性格のキャラかよくわからないまま最終決戦に突入してしまう。あと、味方サイドの玉にこだわりすぎな問題も、仲間がなかなか揃わないグダグダ展開に手を貸している。親兵衛は最初玉を持っていなかったので、静姫を助けても他のメンバーの反応が冷たい。いや玉にこだわるのはわかるが、その扱いはひどいだろう。親兵衛が玉を見せてからの、手のひら返しはちょっと笑ってしまう。加えて、この不毛なやり取りのおかげで、洞窟暮らしをしていた荘助、小文吾の生い立ち説明が非常に薄くなっている。玉持ってるからという理由だけで簡単に仲間になりすぎだろ、この2人は。

 最終決戦は親兵衛以外の剣士の「俺に構わず先にいけ!」のセリフが印象に残る。よく『聖闘士星矢』や『キン肉マン』などで聞いたことのある一種の死亡フラグ的セリフだが、このセリフが短時間で連発されるのだ。「あ、こいつら死んだ」と思うまもなく、派手なアクションをして死んでいく。敵味方揃って、死亡シーンのバリエーションも豊かで、テンポがいいのは良いか悪いのか…。しかし、結果的にここが八剣士たちの大きな見せ場にはなっている。敵味方の因縁が薄い気もするが、まあそこは仕方ない。

 話の進行は、ハッキリ言ってかなり雑で無茶苦茶な部分も多い。しかし、JACの活躍や、個性的な演出などで、面白い映像作りをしてそこを補っているのがこの作品の特徴だ。このあたりは、短期間で、無茶苦茶な設定の映画を撮る仕事に多く関わった深作監督だからこそ出せる魅力かもしれない。80年代に角川春樹事務所が製作に関わった作品の中では、かなりオススメの一作だ。

(斎藤雅道=毎週土曜日に掲載)

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