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【幻の兵器=最終回】ブラジルでは1938年就役以来いまも運用され続けている「河川砲艦」

 河川砲艦は文字通り河川で運用される軍艦であり、航洋軍艦とは全く異なっている。まず、喫水が非常に浅くて乾舷も低いため、たらいか洗面器に上部構造物がのったような形状となっている。また一部の高速艇を除く河川砲艦は低速で、もちろん外洋航行能力も極めて低い。さらに、河川砲艦は大きくふたつのタイプに分類できる。ひとつは、たらい舟にとにかく強力な武装を施したタイプで、航続距離は短く乗員の居住性もほとんど配慮されていない、武装が再優先の設計なので当然ながら船舶としての性能も低い。もうひとつは、いわゆる川船に武装を施したようなタイプで、こちらは船舶としての性能をも念頭において設計されているため、航行性能も安定しているし航続距離も比較的長い。

 もちろん、両者はその運用法も異なっている。航続距離が短くて乗員の居住性も低い重武装艦は必ず支援設備を持った基地を必要とするため、どうしても局所防衛的な運用が基本となる。だが、その反面、戦闘能力は高いため、ある程度本格的な戦闘行動にも参加することが可能だ。他方、後者はあまり本格的な基地を必要としないため、支援設備の整っていない僻地や最前線でも運用が可能である。だが、戦闘能力はたいしたことがないため、ほとんどは植民地警備に使われているし、植民地戦争以上の規模の戦闘にはいささか力不足であることは確かだ。

 各国とも必要に応じて重武装型と軽武装型を使い分けていたが、地政学的な情況や戦略方針の違いによって、どちらかを優先して整備していた。例えば、広大な植民地帝国を築いていたイギリスは、当然のように軽武装の河川用砲艦を好んで建造していたし、反対に国土防衛の要素として大河を重視していたロシアは、重武装の河川用砲艦を大量に建造、整備していた。また、日本は中国大陸で運用するために海軍が軽武装の河川用砲艦を建造し、日本陸軍は上陸作戦などの支援用に比較的重武装の砲艇を多数建造している。

 その他、変わったところではロシア革命時に赤軍が使用した河川用水上機母艦があり、兵器としての能力は不明だが、ヴォルガ河で運用されていたことは判っている。ただし、さすがに大きさと喫水の制約が厳しい河川艦艇で航空機を運用することは問題が多かったようで、赤軍の河川用水上機母艦以外にはほとんど例を見ない。

 オーストリア・ハンガリー帝国はドナウ河流域の国家であり、当然ながら有力な河川艦隊を有していた。第一次世界大戦が始まると、河川艦隊は直ちにドナウ河の制水権を確保し、南岸であるセルビア領を攻撃するなどして、地上部隊の作戦を支援していた。だが、オーストリア軍のセルビア侵攻作戦そのものがなかなか進展せず、河川艦隊が確保した制水権も有効には活用されなかった。また、当時オスマントルコが支配していたメソポタミア(現在のイラク領)へ侵攻したイギリス軍は、チグリス河やユーフラテス河に河川艦隊を派遣し、地上部隊の作戦を有利に展開している。

 第一次世界大戦後の1930年代に揚子江流域の上海付近で日中の武力衝突が激化したことから、日本はもちろんイギリスやアメリカが揚子江へ河川艦隊を派遣した。日本の河川艦隊は陸軍の部隊と海軍の部隊があり、それぞれ異なる河川砲艦を運用していたのは先に述べたとおりである。その他、日本「陸軍」は満州国「海軍」の建軍を援助しており、比較的重武装の河川砲艦を黒龍江で運用させていた。

 第二次世界大戦中は各国の河川艦隊が活躍したが、最も活躍したのはソビエトの河川艦隊だった。ソビエトの河川艦隊は15センチ砲を装備した河川用モニター艦や高速艦、掃海艇、ロケット砲艇などを保有しており、さらに旧式の河川砲艦も大量に保有していた。これらの河川砲艦は、まずポーランド侵攻時に相手の河川艦隊と交戦したほか、独ソ戦で戦争の帰趨に非常に重要な影響を与えた。

 レニングラード(現サンクトペテルブルグ)がドイツ軍に包囲された際、ラドガ湖の水上補給路を確保して抵抗を助けたのはソビエトの河川艦隊だったのである。その他、ヴォルガ河艦隊はバクー油田から内陸部へ向かうタンカー船団を護衛し、さらにスターリングラード(現ヴォルゴグラード)の戦いにおいても、ドイツ軍が阻止できない河面上から砲撃支援を行い、地上部隊の戦闘を助けている。

 第二次世界大戦後、中ソの紛争に発展した珍宝島事件(ダマンスキー島事件)ではソビエトの河川砲艦が多少活躍したものの、大河流域での大規模な戦闘行為が減少したため、当然ながら河川砲艦が活躍する機会も大幅に減少した。

 だが、ベトナム戦争においてはメコン川流域が主戦場のひとつとなり、アメリカと南ベトナムは大規模な河川艦隊を投入して地上戦を支援している。アメリカはMRF(河川機動部隊)と呼ばれる河川艦隊を編制し、最終的にはメコン川の河川交通路をほぼ掌握するに至った。だが、映画「地獄の黙示録」に登場して最近ではプラモデルにもなったPBR(警備艇)だけでも290隻投入しており、合計すると600隻を越える河川砲艦を必要としたことを考えると、コストに見合う戦果だったかどうかは微妙なところといえる。

 ただし、大規模な戦闘行為は無いものの、小規模な地域紛争はザイールなど中央アフリカの大河流域でも発生しており、河川砲艦の必要性が全くなくなったという事ではない。中でも、ブラジルのマットグロッソ小艦隊における主力砲艦「パルナイバ」は、第二次世界大戦前の1938年に就役したが、ヘリコプター運用甲板の増設を含む大規模改修を経て、現在もなお運用され続けている。

 実のところ、ブラジル海軍は新型河川用警備艦の建造を目論んでいたが、諸事情によってキャンセルされ、代わりにパルナイバを改装したという経緯がある。そのため、今後の情勢によっては、再び重武装の大型河川砲艦が建造される可能性もあるだろう。(了)

■要目(1998年の改修後)
排水量:基準620t(満載720t)
全長:55.0m
全幅:10.1m
吃水:1.6m
機関:ディーゼルエンジン2基
速力:12ノット
乗員:74名
兵装:Mk.22 50口径3インチ砲×1門 70口径40mm単装機銃×2基 Mk.10 20mm単装機銃×6基
搭載機:ヘリコプター甲板のみ
電子装備:レーダー

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