メアリー・ノートンのファンタジー小説『床下の小人たち』が下敷きとなっているこの作品のあらすじは、郊外にある古い屋敷の床下で、両親と密かに暮らている14歳の小人の少女・アリエッティ(声:志田未来)。彼女はある日、その屋敷に引越してきた病弱な少年・翔(声:神木隆之介)に自分の姿を見られてしまい、人間の手の届かない場所へ移動を余儀なくされる。しかし、翔のやさしさに触れ…。というもの。アリエッティたちの安住や、翔の命の糸の先はわからないまま終わる、予定調和のジブリにしては少々辛い結末だ。
凝りに凝ったディティールをこれでもか! と見せつけた上、大竹しのぶ、藤原竜也などという、とんでもない豪華な声あてのキャスト陣。その金のかけように、無名の俳優が出演し、予算300万円なんていうインディーズ映画(サイタマのラッパー2とか)のPRをしている自分がむなしくなった。そりゃ見る値段おんなじなら、みんなコッチ見るよね。これが残酷(1)
勇敢で美しい少女・アリエッティは、頼もしい父、シチューが上手で優しい母がいて、「怖がらなくてもいいよ」と囁く、優しい少年と恋をする。そしてそれがきっかけで、将来を予感する新たな人物にまで出会う。記者だって昔はアリエッティみたいに希望に満ちた少女だったけど、大学を出て就職をしたら誰も囁いてくれないし、父は家でペットよりも地位が低く、母のシチューにはちくわが入ってる。あと10年で50歳なのに運命的な出会いもまだ無い。あしたもまた仕事、映画と自分のリアルが違い過ぎて空しいの一言だ。残酷(2)
病弱な翔をやさしく迎える大おば様の貞子さん(声:竹下景子)がまたステキだ。この作品でただ一人の悪役である、お手伝いのハルさん(声:樹木希林)を従え、とにかくお品がいい。きっと、記者と一緒にこの映画を見ている子供たちも、夏休みはこんなおばあちゃんがいる田舎に行きたかろう。離婚した父、カツマ化した母の両親という設定は翔と一緒なのに、優しいおばあちゃんや小人のいる田舎の家に行くのではなく、訳のわからない「知らないおばさん」(彼らは記者をそう呼ぶ)と映画を見た後、ファミレスでご飯を食べ、そのあと塾に送られるというブルーな一日を過ごす彼ら。不憫だ。残酷(3)
せっかくいい気分だったエンディングに「おわり」と大きく黒ぬきで写されるラストの演出。一緒にいて楽しい時を過ごすも、相手から「もう帰れ。」と言われた時のよう。見ている時は楽しいのだが、見た後の喪失感がハンパないジブリ作品。映画に出てくる設定があまりに夢過ぎて、世知辛い現代ニッポンとのギャップが埋められない。子どもたちは毎年夏が来るたびに、「夢の世界は永遠では無い事」を思い知らされる。残酷(4)
以上、かわいく、楽しい、ジブリ作品なれど、本当は残酷で怖い、『借りぐらしのアリエッティ』なのでした。(伝承的な怖さを期待して最後まで読んだ方、タイトルが釣りでごめんなさい)<コダイユキエ>