例えば、いつもお店にフラリと立ち寄った。しかし、その日目当ての女の子はお休み。「それは残念、じゃあ彼女と仲良しでよくテーブルにも就くあの子を呼んでもらおうかな」と、入店時に受付で指名を入れる。コレだけでも、女の子は怒り心頭。せめて場内くらいにしないと、立派な指名替えで裏切り行為と映る。例え呼んだ女の子が本命の子と仲が良くても、それとこれは別問題。ついでに言えば、客からは仲が良く見えても本当に仲が良いとは限らない。腹の中では罵り合っていることだってザラ。見た目では計れないのがキャバ嬢の本音。大した意味もない“プチ指名替え”が原因で、それまでくすぶっていた憤懣が一気に噴出することも往々にしてあるようだ。
そしてこの一連の出来事で一番被害を被るのが、指名替えで新しく就いた女の子。プチだろうが本気だろうが、替えられた子に「ドロボウ!」と罵られ、他のキャストにも、「ひどいよね〜」と、陰口を叩かれたりと…。「ホント、指名替えはいい迷惑。そんなコロコロ替える男は、客としても人としても、もちろん男としても信用できないし、むしろ憎い!」そう語るのは、川崎のクラブ『S』のホステス、横山みなみさん(仮名・23歳)。
彼女、ちょっとばかり前に起きた指名替え事件が原因で、二次被害に見舞われた。「警察は土足で家の中に踏み込んで来るし、私も尿検査させられたり、事情聴取されたり…おかげで肌はボロボロ、彼氏は拘置所だし…もう!!」 相当カリカリしているが、それというのも1か月ほど前、彼女の部屋で覚せい剤が押収され、シャブ中の彼氏は逮捕。彼女もこってり絞られたせい。「彼氏がシャブ中っていうのは自慢にならないけど、でも、そんなのよくあることでしょ。ヤクザの事務所に手入れとかなら分かるけど、一般人の家に…普通来るわけないじゃん。これも全部あの女がチクったからなんだよね。あ〜腹立つ!」
ご立腹加減もハンパではない様子。その女とは、彼女と同じ店に最近まで勤めていた優花(仮名)なるホステス。警察に匿名で「知人が覚せい剤を大量に売りさばいている」と通報し、この有様なのだという。
そんな電話一本で神奈川県警が動くとも思えないのだが。「そうなんだけど、住所とかアタシが店でしゃべってる話とか、あることないこと説明したらしくて…」それじゃあ一度、様子を見に行きましょう。ということで、交番の巡査を差し向けられた。「町内巡回中とか言って様子を見に来たみたい。私が居れば何とかなったんだけど。まあ、彼氏もさ、その時キマりまくってて、その警官を自分がいつも見る妄想のアレだと思って、今度こそやっつけてやろうって、ヤル気になっちゃって…」奇声を発しながら警察官に三角締めをキメたのである。
通報通りということで、ガサ入れまでされてしまった。「売りさばいてなんかないから、大して何も出てこないけど、家中ひっくり返されて…片付けに1週間かかった」みなみさん曰く、その優花、日頃から彼女に並々ならぬ敵愾心を燃やしていたそう。お互い鼻っ柱が強いため、店内での罵り合いも頻繁だったようで、ある時、優花の客が、みなみさんに指名替えしたことで、怒り心頭に発した。日頃からみなみさんが、「彼氏がシャブ中で超マイる、超へコむ」と、こぼしていたことを思い出し、そこに付け込んだというのが事件のあらまし。
「優花も腹立つけど、客が一番憎い。文句のひとつも言ってやりたいけど、あれから店に来ないし。今度、街で見かけたらキックしてやる」 自分の知らないところで、惨事を引き起こしている可能性もあるので、指名替えにはくれぐれもご注意アレ。
いきなり街中でキックされるかもしれないぞ。
客がついやってしまう“プチ指名替え”のケース 、客にさほどの罪の意識がない“プチ指名替え”には他にもこんな場合がある。
例えば初回のお店。フリーでついた子を、次回来店時に本指名した。しかし、3回目の来店時には本指名を入れず、場内指名で別の子を呼んだ。あるいは、2度ほど本指名を入れたが、3回目では別な子を本指名した。これもちょっとした指名替え。こうしてみると、ずいぶん窮屈に感じるが、それだけホステスにとって指名が重要な意味を持つということだ。
また、客に罪のない指名替えに義理指名がある。 例えば、その子の客ではないが、馴染みのキャバ嬢が他店に移った時。キャバ嬢の営業を受け「じゃあ顔出してみるか」ということはよくあるだろう。その際顔を立てて指名を入れるのが義理指名。いい子がいたら、次からはその子を指名しよう。なんて思うのが客の立場だ。
しかし、そのキャバ嬢にとっては“自分の客”という意識がある。後で揉めないように、義理指名の時は「いい子いたら、次からその子にするよ。でも誰か客連れて来てやっから」くらいのことを一言言っておくと面倒を避けられる。迂闊な指名替えは、本命はもちろん、その店の女の子全てから、“A級戦犯”扱いされるので気をつけたい。