「この世界はキャバの経営を始めたという友達に誘われて、軽い気持ちで入ったんです。最初は楽しかったし、問題なかったんですが、元カレを思い出すようなお客さんにあたると、体調が悪くなり、帰ってからも一切眠れませんでした」
佐奈は元カレから激しいDVを受けていた過去があるという。その傷はまだ癒えておらず、乱暴な態度の客と接すると、過去を思い出し、彼女を苦しめた。恐怖心から頭がパニック状態になると、動悸が激しくなり、会話も支離滅裂、キャバクラの仕事を回していくのには厳しい状態となり、体調は日々悪化していった。仕事を終えてからも眠ることはできず、布団に入ってからもずっと震えていたという佐奈。
「最初は心療内科にも通院して、睡眠薬を処方してもらっていたりしたんですが、弱いものでは、だんだん効かなくなっていきました」
客への気遣いを常に求められる嬢にとって、ストレスにより心を蝕まれてしまうことが多いと聞く。佐奈の場合はそれに加えて過去のトラウマが消えることなく苦しめた。せっかく派手なメイクとドレスで着飾っても睡眠不足で肌は荒れていく一方。彼女の精神状態は限界に近づいていた。
「ずっとこの世界に誘ってくれた友達に悪いと思って、辞めたくても言い出せなかったんです。でも心療内科の先生に相談したら、このままの生活だと状態は悪化する一方だと言われてやめる決意をしました」
これ以上、キャバで働くことを医者に止められた佐奈は、店側にDVの過去やパニック障害などの事情をすべて話し、夜の世界から足を洗った。現在は、人と関わることの少ない、データ入力の仕事を都内で行っているという。
(文・佐々木栄蔵)