今回のDVDは過去の作品からお気に入りを選りすぐったものだという。
「自分のレパートリーから、つい見落としがちだけど気に入っている話を残しておきたい…そう思いましてね。これ1本あれば他に何もいらない…そうしたDVDですよ」
収録されている作品は、どれも本当にあった事件についての話なのだとか。
「昔どこかで聞いたことがあるなあ…と思える、怖いけどホッとする話ばかり。無理して怖くしない、でもゾクッとするような。無理に怖くすると気持ち悪くなってしまいますから。最近よく思うんです、怪談は事件の報告じゃないんだと。香り、匂い、雰囲気…これが感じられないと怪談じゃないんですよ」
このDVDは全77分という長時間にわたって怪談を収めている。しかし、自分の間で話せたので、気持ち良く演じられたそうだ。
「TVだと時間に制限があるでしょう。スゴく怖い話でも“3分でお願いします”なんて。そんなの無理だって(笑)」
怪談のいいところは、聞き手が話を自分のものとして追体験しているところだという。
「お客さんが話を聞きながら、個々に状況を追っているんです。だから、こちらも状況を想像できるよう、イメージできる間を与える。それが怖さにつながり、こちらもウケたと感じる瞬間になりますね」
怪談とは日本人的なもので、あまり西洋的な考え方には当てはまらない。向こうでは具体的に目で見せないと、恐怖につながらないのだそうだ。
「私のやっていたラジオ番組に早見優さんとアン・ルイスさんがゲストでいらしたときのことです。私が怪談を始めたら、最初は真剣に聞いてたんですが、途中いろいろ質問してきて、最後は全然怖くなくなりました(笑)。2人ともアメリカ育ちですから」
怪談で最も必要とされるのが描写のテクニック。ふさわしい言葉で状況を的確に表現しつつ、さらに分かりやすく話さなければならない。
「例えば『赤い半纏(はんてん)』という話。これは戦時中の特攻の話ですが、出てくる言葉が今の子どもに分かるのかなぁと思います、割烹着とか分教場とかモンぺとかね。それに当時のトイレの造りも今と違うし。でも、クドく説明するとお客さんが興ざめしちゃいます。作家さんがうらやましいですよ、漢字一文字で表現できるから」
このように、古典を話すときは話を伝えるのに苦労があるという。
「怖い話を本にするため、若い女の子2人の前で話したことがあるんです。でも全然怖くなかったみたいで、つまらなそうな顔をして“ガッカリした”なんて言ってる。ところが、それを夜中に一人っきりで文字に起こしていたら、とても怖くなったらしくて、夜中に“助けて!”って電話がありました(笑)。耳で聞いただけじゃ何でもなくても、言葉として目で見ると怖いんですね」
力任せに怖がらせるのではなく、さまざまなテクニックを駆使して聞き手の想像力を掻き立てる、それが“稲川怪談”の真骨頂だ。
「私の怪談を野球に例えると、ものすごい速球を投げる剛腕投手というより、球速は130km程度だけどコントロールで勝負する投手という感じでしょうか。話術でお客さんを“ウオッ”と怖がらせるね」
だからこそ、子どもからお年寄りまで幅広い年代に受けるのだ。
「私が深夜放送で怪談を始めたころ、40代から80代の方から手紙で体験談が寄せられました。中にはご高齢の方から“往時を思い出した”という礼状が来たこともありますよ」
DVDの購買層は若い人が中心だが、ライブの客層は年代に偏りがない。そこがうれしいと語る。
「すごいことですよ。私より年上の、人生の先輩がチケットを購入して見てくださる。泣きたいほどうれしくなりますね」
その全国ツアー、今年は去年より日程が増え、会場も大きくなっている。
「去年はお客さんが入りきれない会場もありましたので、今年は『2デイズ』もあります。両日とも来場されるお客さんのため、各日ごとに話を変えてます。内容は怪談話らしい怪談あり、ちょっとサイコっぽい進んだ感じの話ありと、バラエティー豊かにそろえてます。セットも昨年は懐かしいレトロ調でしたが、今年はガラリと変えました。でも、あまり変えすぎると逆に期待を裏切っちゃうので、そのあたりは考えてます」
ツアーには遠方から駆けつけるファンも多い。
「東京の会場に大阪や九州、北海道からお見えになる方もいる。裏切れませんので楽できないですね。いい意味で尻を叩かれます」
〈プロフィール〉
いながわ・じゅんじ 1947年8月21日生まれ。東京都出身。70年3月に桑沢デザイン研究所を卒業後、工業デザイナーに。96年に「車どめ」で通商産業省選定グットデザイン賞を受賞。デザイナーながら宴会芸が縁で芸能界入り。70年代にニッポン放送「オールナイトニッポン」のパーソナリティーでデビュー。日本テレビ「ルックルックこんにちわ」「スーパージョッキー」やTBSテレビ「風雲!たけし城」などでの大げさなリアクションで人気を博す。
〈きょうからコンビニでDVD「稲川淳二の怪怨夜話」発売〉
夏の風物詩をコンビニで!DVD「稲川淳二の怪怨夜話」(リバプール)を全国のセブンイレブン、サークルK、サンクス、ファミリーマートにて18日に発売開始。価格は1890円=税込。
〈全国ツアー7・28スタート〉
今年もやります! 全国ツアー
「2008稲川淳二の怪談ナイト」
16年目を迎えた全国ツアーが今年も7月28日からスタート。チケット完売必至だけに、入手はお早めに。なお、関東近辺の予定は次の通り。
◇7月27日 小平市・ルネこだいら
◇8月13日 逗子市・OTODAMA SEA STUDIO
◇8月16日 荒川区・サンパール荒川
◇8月29日 新宿区・日本青年館
◇9月5・6日 横浜市・関内ホール
◇9月7日 さいたま市民会館おおみや
◇9月27日 港区・東京メルパルクホール
◇10月10日 川崎市・クラブチッタ川崎