「トリパノソーマ・クルージと呼ばれる原虫の血液感染で発症する、人獣共通感染症です。1909年にブラジル人医師により発見されていますが、ここへ来て拡大の様相を見せているのです」(サイエンス記者)
東大医科学研究所に勤めたこともある、世田谷井上病院の井上毅一理事長が説明する。
「シャーガス病患者は中南米に多く、カメムシの仲間の『サシガメ』という吸血性の昆虫が人間を刺すことで、原虫トリパノソーマを血液中に感染させる。感染後、約1〜2週間後に発熱や倦怠感、リンパ節の腫脹といったあまり特徴のない症状が現れ、急性期はまれに心筋炎や髄膜炎などの重篤な症状を起こします。しかし、大半の人は症状がなく経過し、気付かないまま慢性期に移行することが多いのです」
大抵の場合は潜伏期間が30年と長いものの、発症すると治療のほどこしようがない。これが、“新たなエイズ”と呼ばれる所以だ。
「エイズのように性交渉によって感染することはない。しかし、脳脊髄炎や心臓障害を引き起こしたり、脾臓、すい臓、腸、食道が腫脹し、時に巨大化することがあります」(同)
症状が悪化すると肥大化した器官が破裂、心筋障害が進展した場合は突然死や心不全を引き起こす場合があるという。
香港メディアによれば、先ごろアメリカ熱帯医学会(ASTMH)が、アメリカでシャーガス病の感染が拡大して感染者数が30万人を超え警鐘を鳴らしたというが、世界ではラテンアメリカを中心に推計800万人〜1000万人の感染者がいるという見方もある。
「輸血で感染する人も多く、他人ごとではない。“日本にも、気付いていないだけで多くの感染者がいる”とする専門家もいます。今後は温暖化によるサシガメの生息も考えられ、南米産の農産物が多く流入すればその可能性も高くなります」(前出・サイエンス記者)
怖いのはエボラだけではない。