9月19日の巨人対DeNA戦が始まったのは、午後2時。どこの球場でもそうなのだが、施設内のテレビにオンエアされているのは自軍の試合中継だ。
しかし、同日の東京ドームは違った。同時間にスタートした「埼玉西武対東北楽天」にチャンネルを切り替えている者もいた。
理由は“元同僚”内海哲也のラスト登板、引退セレモニーが行われるからである。
「球団を介して正式に阿部慎之助作戦兼ディフェンスチーフコーチも労いのメッセージを送っていますからね」(スポーツ紙記者)
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打者一人、限定登板だった。そのラスト登板は“セレモニー”ではなかった。
東京ドームの巨人関係者も驚いていたが、内海はキャッチャーのサインに首を振った。投じた球数は全部で5球、うち2度も首を振って、「球種」を変えさせた。
「5球ともストレートでしたね」(関係者)
速球派の投手ではなかったはず。ストレートにこだわったのは、何故か?
これはセレモニーの行われたベルーナドームにいた取材陣を介しての二次情報だが、内海は「オール・ストレート」となったことを質問され、
「緊張で、変化球でストライクゾーンに行く気がしなかった。打たれてもいいから、変化球でボールカウントになるよりは直球で勝負したかった」と、答えていたそうだ。
変化球で逃げるよりも、ストレートで勝負した方がマシ――。
その“ダンディズム”が東京ドームのマウンドでも再現された。9回、最後のマウンドに上った大勢がDeNA・佐野恵太に「ストレート勝負」を挑んだのだ。
「佐野は大勢との前回対戦で、決勝点となる18号ソロを放っています」(前出・スポーツ紙記者)
156キロの剛球は、右翼席まで弾き返された。2打席連続での被弾ということになるが…。
その後は3者凡退に仕留めたものの、課題は残った。
「大勢はヤクルト・村上宗隆にもホームランを打たれています。『左バッター対策』が必要」(プロ野球解説者)
しかし、ここ最近の大勢はピッチングスタイルが変わった。スライダー、フォークなど勝負どころでは変化球を使っていたが、ストレート主体になってきた。
考えられることは、「勤続疲労」。同日が53試合目の登板である。首脳陣が3連投を回避させてきたとは言え、長丁場のペナントレースは初めてだ。変化球主体の“逃げのピッチング”しかできない日もあったのではないだろうか。
「村上に打たれたホームランは、NPB日本選手タイとなる55本目。相当悔しかったみたい。ストレート主体になったのは、その直後です」(前出・同)
試合後、原辰徳監督は「良いバッターに対してちょっと痛い思いをし、チャレンジしたということでしょう。そこがまだ自分は少々力量を上乗せする必要が…」と、成長に期待した。
34セーブ目、新人最多の「37」まであと3セーブと迫った。ホームランを食らった佐野に前回対決と同様、ストレート勝負を挑んだ意気込みはセーブ記録以上の価値がある。(スポーツライター・飯山満)