各国の報道機関は世界保健機関(WHO)が定めたいわゆる「自殺報道ガイドライン」を踏まえ、自殺に関するニュースを伝えている。ガイドラインでは「自殺の報道記事を目立つように配置しないこと」「自殺に用いた手段について明確に表現しないこと」「自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと」などと定めているが、日本ではまだまだ行き過ぎた報道が目立つようだ。だが、他国では状況が異なるという。
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ほとんどの国がWHOのガイドラインに従ってはいるが、それに加え、独自の規制を設けている国も少なくない。オーストリアでは1987年に精神科の専門家らが自殺報道の方法を定めたガイドラインを設定。きっかけとなったのは地下鉄での自殺が増加したことだった。それまでは地下鉄での自殺が未遂を含め年に1、2件だったのが、1984年頃から増え始め、1987年頃までには最大年約20件にまで急増。その原因はメディアが自殺をセンセーショナルに報じたことであると考えられた。
こうした状況を受け、1987年に精神保健の専門家らが自殺を報道する際のガイドラインを設定。ガイドラインでは1面に自殺報道を掲載しないことや、自殺者、自殺行為を美化する描写や表現をしないことなどが定められた。ガイドラインが設定された後は自殺数が激減し、地下鉄内を含め、全体の自殺率を減らす効果があったという。現在もこの規定は守られており、同国の自殺対策支援団体もメディアの自殺報道を支持しているようだ。
またアメリカや韓国も見出しに「自殺」という言葉の記載を避けることなどの規制を独自に設けている。アメリカでは精神科研究所や自殺防止委員会などがガイドラインを作成したが、現状、ガイドラインを守りきれているかというと、そうではないという声もある。韓国のガイドラインは韓国記者協会が作成。ただし韓国でも守られていないことが多く、センセーショナルな報道も珍しくはないようだ。
一方、自殺について淡々と報じる国もある。ドイツでは、コロナ禍真っただ中の2020年3月、ヘッセン州シェーファー財務相の自殺が大体的に報道されたが、多くのメディアが「自殺」という言葉を使用して報じた。近年、日本ではあまり“自殺”という文字を入れた報道を見かけないが、ドイツではタイトルに“自殺”という言葉を入れた報道も少なくはなかった。また、財務相の自宅やゆかりのある人への取材などはなかったが、財務相の功績をたたえるコメントを紹介している記事もあった。
これについて現地在住のドイツ人は「自殺に関する報道は、とても慎重にされていると思う」とした一方で、「自殺という言葉を使って報じるのは、自殺の真実などプライベートなことを除いて、事実をあやふやにせず、きちんと知りたいというドイツ人の気質もあるかもしれない」と分析。“自殺”という文字の衝撃が「ないわけではない」というが、「ドイツ人は自己肯定感が高い人が多く、メンタルも強いと思うし、報じるメディアもその気質を知ってのことだと思う」と推測した。
日本で自殺に関するニュースを見るたびに「日本は自殺を美化するような報道が多く、日本人は自殺を肯定的に捉えているのではないかとさえ思った」と明かす、日本に数年住んだことのあるという別のヨーロッパ出身者もいる。自殺に関する報道が人々に与える影響は決して小さくはない。報道の在り方がより問われる時代となっているようだ。
厚生労働省、各都道府県では悩みを抱えた人の相談窓口を設けている。詳細はこちらから。
・厚生労働省 相談先一覧
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_info.html
・いのち支える相談窓口一覧(都道府県・政令指定都市別の相談窓口一覧)
https://jssc.ncnp.go.jp/soudan.php