ボーンマス大学のマシュー・ロバート・ベネット教授(環境・地理科学)とマーシン・ブドゥカ教授(データサイエンス)は、AIを用いた法科学の進歩と、それが未来の犯罪解決に向けてどのような意味を持つのかを考察している。
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法医学では、専門的な証拠を分析し意見を述べる鑑定人が重要な役割を果たすが、専門家とはいっても人間であるため、欠点や失敗がないとは言えない。また鑑定人の役割は、しばしば司法の誤りと関連することもある。そこで彼らはAIの法医学における証拠を研究する可能性について調査。最近発表された2つの論文では、AIは一般の法医学者よりも現場に残された証拠、足跡の評価に優れているが、特定の足跡を分析する専門家よりも優れているわけではないことが分かったという結果が出ている。
人が裸足で家の中を歩くと、カーペットにくぼみや、足の裏の残留物が残る。足跡の大きさからは容疑者の身長、体重、さらには性別までもが分かる。靴で歩いた場合も同様で、肉眼で見える場合と見えない場合がある。しかし現場に足跡が残されていれば捜査官は事件を再現でき、未知の容疑者のプロファイルを作成することもできるため、証拠として重視されている。
最近の研究では、足の専門家に多くの足跡の性別を判定してもらったところ、50%強の確率で正しく判定できた。次にAIの一種であるニューラルネットワークを作成し、同じ判定を行ってみたところ、なんとAIは約90%の確率で正解した。さらに驚いたことに、ニューラルネットワークは、少なくとも10年単位で足跡を残した人物の年齢を割り出すことができたという。
現場に残された靴跡に関しては、靴の専門家が経験で靴のメーカーとモデルを識別することができる。現在イギリスには30人以下の靴の専門家がいると言われており、多くの法医学者や警察官が足跡のデータを集積した「フットウェア・データベース」を利用しているという。しかし、後者にとってフットウェアの分析は困難であり、しばしば専門家による検証が必要となる。ここでAIが専門家の代わりにならないか、と注目されたのだ。
そこで新たにイギリスのBluestar Software社と連携して2つ目のAIニューラルネットワークを構築し、靴のメーカーとモデルを学習させた。その後、たまにフットウェア・データベースを利用するユーザーに、ランダムに選ばれた100個の靴跡を渡してデータベースと照合してもらうという実験を行った。
この実験を何度か繰り返したところ、ユーザーが正しく解析できたのは22%から83%だったのに対し、AIは60%から91%の確率で解析した。しかし、フットウェアの専門家は、ほぼ100%の確率で正解したという。この実験でAIが専門家を上回ることができなかった理由だが、靴は持ち主の履き方によって変化するため、タスクがより複雑になることから熟練の専門家の経験に及ばなかったのではないかとみられている。このことから、AIは現時点で専門家に取って代わることは難しいようだが、一般人に近いユーザーよりは優れた結果を出せることが明らかになった。
これらの研究結果から、AI関連の技術が進めば簡単なケースをAIが担当し、専門家の負担を減らせるのではないかという結果が示唆されている。AIは人間に取って代わるのではなく、AIとすみ分けていく未来がやってくるのかもしれない。
(山口敏太郎)
参考記事
Could AI be the future of crime solving?(unexplained-mysteries.com)より
https://www.unexplained-mysteries.com/news/350085/could-ai-be-the-future-of-crime-solving