1998年は横浜の年だった。横浜ベイスターズは38年ぶりに日本一に輝き、横浜高校は春夏の甲子園で連続で全国制覇を果たすなど、浜っ子にとって忘れられないメモリアルイヤーとなった。
その年のドラフトの目玉はもちろん横浜高校のエース・松坂大輔。地元ベイスターズと相思相愛の仲だったが、無念にも当たりくじは西武ライオンズの元へ。その後はNPBを代表する大エースとなり、メジャーでもレッドソックスでワールドチャンピオンに貢献するなど大活躍したが、度重なる怪我の影響でNPBに復帰後は輝きは戻らず、無念の引退となった。
高校2年時には横浜スタジアムでの神奈川大会準決勝で、自らの暴投で甲子園出場を逃すなどのストーリーもあり、浜っ子には特別な記憶が残る松坂が、最後にハマスタに登場したのは2018年9月22日。DeNA-中日戦後のG後藤武敏の引退セレモニーで横浜高校の同期、小池正晃コーチと後藤に花束贈呈し、熱い抱擁を交わした後3人でガッチリと握手。その後、後藤がファンの待つスタンドに向け場内一周をする際も、松坂は三塁ベンチで待機し、リリーフカーが近づくと両手を大きく振り、気づいた後藤も手を振り返していたシーンは印象的だった。
セレモニーの最後の胴上げでも、松坂は異例の参加。万感の想いを込め、同期を8回宙に舞わせる姿に、場内からは惜しみない拍手と歓声がとどろいていた。「松坂世代の一員でいられたことに感謝し、引退します!」と後藤も最後のスピーチで名を挙げるなど一瞬、時が1998年に戻ったような雰囲気にハマスタが包まれた。
引退決定により松坂がNPBで横浜スタジアムで登板したのは、西武ライオンズ時代の2006年5月19日の交流戦のみとなった。2018年のドラゴンズ時代はすべてナゴヤドームだったことから、勇姿を見たかった横浜のファンには少々寂しさが残る結果となったが、諦めない心と消えるスライダーは、YOKOHAMAの地に色濃く刻まれている。
取材・文・写真 / 萩原孝弘