「普段の藤浪は対戦チームについて語ろうとしません。でも、この日は饒舌でしたね」(在阪記者)
翌12日の埼玉西武戦だが、大阪桐蔭時代の後輩・森友哉捕手がいる。その森との対戦について聞かれ、藤浪が答えている途中だった。その森が駆け寄ってきて、後ろからポンと肩を叩いた。
藤浪は驚いて振り向く。後輩のイタズラだと分かると、「何の質問でしたっけ? 森がどうとかって…」と、本人のいる前で“シャットアウト”を宣言した。
終始、笑顔だった。開幕投手は「チームの顔」、主軸投手とも言える。それに選ばれたことが本当に嬉しかったのだろう。
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2016年キャンプ中、記者団に混じってこんな質問をしたことがある。「開幕投手は狙わないのか?」と。藤浪は淡々とこう返した。
「そこをめざして投げている人がいるので、自分はシーズン全体に
当時は、メッセンジャーや能見などの先輩投手たちも元気だった。彼らに配慮したのかもしれないが、開幕投手の称号よりも勝ちにこだわろうとするタイプ。そんな印象を受けた。
「開幕投手」を経験したことのあるプロ野球解説者がこう言う。
「開幕投手をやると、野球観が変わるよ。大袈裟ではなく、本当に。監督、コーチ、選手全員、球団スタッフが優勝をめざして開幕戦に臨むわけだし、その責任を背負って投げるんですよ。『チームのため』の思いがさらに強くなります」
矢野燿大監督が藤浪を選んだのは、そんな成長を願ってのことなのかもしれない。
しかし、前向きで、明るくなった藤浪の前で絶対に言ってはならないNGワードもある。
「開幕戦の相手は東京ヤクルト。17年シーズン序盤、ヤクルト選手の頭部にぶつけてしまい、乱闘騒ぎに発展しました。あの一件が藤浪を長いスランプに陥れたと解釈されています」(前出・在阪記者)
開幕戦の舞台は同じ神宮球場だ。開幕戦という独特の緊張感の中で“悪夢”が蘇ってしまったら、と気遣っている関係者もいないわけではない。
「昨年の11月4日、ヤクルト相手に好投しています(6回無失点)。もう、吹っ切れているとは思いますが」(前出・プロ野球解説者)
12日の登板前の成績になるが、練習試合含め4試合12イニングを投げ、失点1。最長は5日のソフトバンク戦で4イニング。無失点に抑えたが、4イニング目に四球を連発するなど、“息切れ”している。
「体を大きく動かすワインドアップ投法にしたので、同じイニング数でも今までよりも疲労感があるのでは?」(前出・同)
問題はスタミナだ。開幕戦を勝利することができれば、もう昔の悪夢を口にする者もいなくなるのだが…。(スポーツライター・飯山満)