甲子園球場の三塁側カメラマン席にいた取材陣から、そんな言葉が漏れた。三塁側の同エリアから望遠レンズを覗き込めば、一塁側の阪神ベンチの様子が分かる。
10月1日、対中日戦。8回にマウンドに上がったリリーバー・藤浪晋太郎が自己最速タイの160キロを連発し、1イニングをパーフェクトに抑え込んだ。
その藤浪がベンチに戻り、汗をぬぐいながら笑っていたそうだ。手応え、達成感。160キロを連発した圧倒的なピッチングができたことで、自信を取り戻したのではないだろうか。
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「最初から全力投球でしたね。思い切り腕が振れたことが好結果に繋がったのだと思います」(在阪記者)
藤浪が160キロを連発させていた時、甲子園球場が“揺れた”。センターバックスクリーンにスピードガン表示が出るのだが、ファンは1球ごとにマウンドとスピードガンに交互に目をやり、「オォ~」と唸り声を上げていた。球場の興奮が藤浪を後押ししていた。
もともと、スタミナもある。今後、連戦を乗り切るキーマンにもなってくれそうだが、こんな指摘も聞かれた。
「長期に及ぶ不振の原因は、やっぱり精神的なものだったようですね」(球界関係者)
“モヤモヤ”が吹っ切れた姿に、矢野燿大監督の言葉は冷静そのもの。「学べるものは技術もメンタルも両方ある」と言い、「先発ローテーションへの復帰は?」の質問は、やんわりと否定した。
同日の先発投手は、母校・大坂桐蔭の先輩にもあたる岩田稔だった。ベテランらしく、相手バッターの裏をかく配球の妙で中日打線に的を絞らせなかった。
良い意味でノラリクラリのピッチングの残像があるうちに、力任せのピッチングをされれば、中日打線も対応できない。「技巧派投手の後に投げさせる」作戦だったとすれば、今回の復活劇は矢野監督の継投策も好影響を与えたと言える。
「阪神は新型コロナウイルスの感染者を新たに出してしまい、チームが混乱しています。当然、球団としての管理態勢が問われていますが、藤浪の好投でそういう空気も一変してしまいました」(前出・同)
良いことが起きると、これまでの失態もなかったことになる。期待論にすり替えられてしまうのだ。案外、藤浪の不振はこういう球団の体質も影響していたのかもしれない。(スポーツライター・飯山満)