日没前に竿を出し終え、のんびりと宇治川の景色なぞを眺めている隙に、アッという間にブッ倒された三脚が落水…。結局、糸を切られて正体すら分からぬまま、お茶を濁すように釣れたギギで荒んだ心を慰めたのが、前回のお話でした。
一応、釣果は得られましたが、凄まじき大バラシの後だけに、今ひとつ素直に喜べません。
ブラックバスやビワコオオナマズといった大物実績が高い宇治川ですから、油断は禁物。しかも、ギギが釣れたということは夜行性の魚が動き始めた証拠。このように静かな時間に出た突然の魚信は、水中の活性が上がっていることを示しており、反応の続くことがよくあります。
ということで、いったんすべての竿を上げてみると、エサのミミズがきれいになくなっている仕掛けがありました。おそらくテナガエビの仕業でしょうが、大型魚の補食対象となるテナガエビが蠢いているということは、やはりチャンスタイムの要因といえましょう。あらためて活きのよいミミズを付けて、仕掛けを再投入します。
待つことしばし。
「ミンッ、ミミミンッ!」
やや上流側にある吐き出しの辺りに入れた竿先の発光体が揺れました。ひと呼吸おいて竿を煽ると「ズンッ!」と重みが乗り、「グングン!」と力強い手応えが続きます。しかし、そのまま寄せにかかると「フワッ!」と軽くなってしまいました。嗚呼、痛恨…。
仕掛けを上げるとハリは付いており、“すっぽ抜けた”ようです。それなりの重量感があっただけに、悔しいのなんの。
「もう1回来いっ!」
同じく吐き出しの辺りに投入。ややあって再び「ミミンッ!」とアタリが出ます。先ほどのバラシもあるので、しばらく様子を見ると「ミンッ、ミミミンッ!」と、竿先が断続的に叩かれました。
★繰り返し掛かる西日本のニゴイ
「もうええやろ」
と竿を煽ると「ズン!」という重量感。念のため、もう1度しっかり煽ってからヤリトリを開始します。
疾走感はないものの、「グンッ、グンッ!」と力強い手応え。やがて「バシャバシャッ!」と派手な水音で水面を割ったのは、60センチ近いニゴイ…。なんだ、オマエダッタカ…。
ふと、先だって当連載で食べた東京都中川のニゴイのドブ臭が頭をよぎります。う〜ん、コイツは食べたくない…。
そんなコトを考えているとハリが外れたらしく、「フッ!」と軽くなってニゴイは川底に帰っていきました。
「食べずに済んだわ〜」
そう安心していると、隣の竿が揺れているではないですか。竿を煽ると、先ほどと同じ感触…。相手は分かっているので強引に寄せてくると、足下に現れたのはやはり…。
「ここで外れてくれれば、食べなくてイイのに…」
そんなことを考えつつ、ぞんざいに抜き上げます。あ、上がっちゃった…。しかも、ちょっと痩せ気味で見るからに美味しくなさそうな魚体です…。
ハリを外すべく魚を押さえると、やけに唇がぶ厚い…。そうでした。こちら(近畿以西)に生息しているのは、唇が厚いコウライニゴイでしたな。ま、どうでもいいですけど。
★臭みはほぼなしまるで海産魚!
前述のように、先だって当連載で食べた東京都の中川(水質ワースト上位の常連)のニゴイでは、強烈な下水臭に悩まされ、「ニゴイ自体には甘味が感じられ、きれいな川の個体ならイケるかも」などと、必死のいいとこ探しをしてしまいました。
そう書いてしまった手前、同じ料理でいかねばなりますまい。
とりあえず釣り上げて、すぐに血抜きや内臓の除去を行ったのですが、下水臭どころか鯉科特有の生臭さもほとんどなし。調理を進めていても、ニオイが気になりません。これは期待できるかも…。
出来上がってみると、臭みは一切ありません。大型ゆえに、都内産で悩まされたY字の小骨も取りやすく、しっかり骨を取り除いてから食べてみると…むむっ、ウマイ! 臭みがないどころか、川魚とは思えない海産の白身魚のような旨味がしっかり感じられます。
それにしても悔やまれるのは、一瞬で三脚ごとブッ倒された大バラシ。あれだけの引きですから、掛かっていたのはニゴイではないはず…。
「近いうちにリベンジせねば」と心に決め、お土産に買ってきた『月桂冠 京の輝き 大吟醸』をグビリとやる夜でありました。
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三橋雅彦(みつはしまさひこ)子供の頃から釣り好きで“釣り一筋”の青春時代をすごす。当然の如く魚関係の仕事に就き、海釣り専門誌の常連筆者も務めたほどの釣りisマイライフな人。好色。