さらに、彼らの毒舌芸は「ギリギリアウト」ではない点が、特徴的だと言える。本人たちは「干されても良い」と述べているが、お笑い芸人以外の俳優や女優の場合は、事前に事務所への確認も入れているようだ。
このほか、彼らは芸人の場合は、自分よりも先輩に対して毒を吐く。それが後輩イビりにならず、権威への茶化しともなる。こうした毒舌芸は、過去のレジェンドたちのスタイルを踏まえているとも言えるだろう。
毒舌芸人の元祖的な存在と言えば、ビートたけしである。ツービートの有名なセリフ「赤信号みんなで渡れば怖くない」は、権威への茶化しそのものだろう。たけしは立川談志などの先達を意識しているとも言える。談志の毒舌も弱者に向けられることはなかった。
ダウンタウンの松本人志も若手時代は毒舌全開であった。『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』(日本テレビ系)などでは、嫌いな芸能人を名指ししていた。名前が伏せられているものの、その他の話から本人がわかってしまう。ダウンタウン自身が勢いのある上昇期におり、あえて周囲に噛み付いていたと見ることもできるだろう。今は松本自身が大物となってしまったため、彼の毒舌は特定の芸能人に向けられることは少なくなった。
有吉弘行の再ブレークのきっかけとなった「毒舌あだ名芸」も、和田アキ子に対する「リズム&暴力」、みのもんたへの「油トカゲ」など、目上の人間に対して毒を吐くことで、笑って許してもらえる前提があった。
権威への茶化しと「ギリギリアウト」を巧妙に避ける、鬼越トマホークの笑いのセンスは、ビートたけし、ダウンタウン松本人志、有吉弘行など過去の毒舌芸に連なるものと言え、ひとまず芸能界に爪痕を残したと言えそうだ。