そして、牡馬戦線を占う弥生賞はセイウンワンダーvsロジユニヴァースの一騎打ちムード。そんな下馬評と同じ思いを抱きながら、取材に当たっていた記者に、「オマエ、どこ見てんだよ!」とばかり、突っ込みを入れる人物が一人。「上がり時計を比べても時計2つは違うからな。まあ、並んだら、あの馬に負けることはない」。衝撃の発言の主は、セイウンワンダー擁する領家調教師だ。
いつも端的で歯切れのいい談話がポンポンと飛び出すのが特徴とはいえ、師のいう“あの馬”は、クラシックに最も重きをなす2歳重賞として知られるラジオNIKKEI杯2歳Sの覇者。その難敵ロジユニヴァースを斬り捨てた自信の源泉は、これまでの険しい道のりにあった。
新潟2歳Sを快勝後、当初は東スポ杯2歳Sを叩き台に、朝日杯FSへと進むはずだったワンダー。だが、前哨戦を前に左前の蹄球炎に見舞われ、ぶっつけ本番を余儀なくされた。「馬房で1週間、缶詰にしていた時期があったし、朝日杯当日も馬が緩く、装鞍所でもボテッと見せていた」。仕上がりは最悪。大敗まで覚悟した一戦だった。
しかし、下見所→返し馬と発走時刻が近づくにつれ、ワンダーは自らの気持ちを高揚させ、戦闘モードにスイッチオン。いざレースでは直線、ゴチャついた馬群の中から狭いインを割って出る抜群の勝負根性を発揮し、2歳王者へと輝いた。
数々のビハインドを跳ね返してつかんだ栄光。それに加え、この中間はすこぶる順調に調整を進めることができた。「ずっと残り込んできたからな。目方は前回と変わらないが、体をスカッと見せているし、中身は全然違う」。まさしく前走時とは雲泥の差。朝日杯FSをはるかに凌ぐパフォーマンスを見せつけられる手応えがあるからだ。
「掛かる馬じゃないから、距離の心配はない。むしろ、少しのロスが命取りとなる千六よりもいいし、二千なら好位づけの競馬もできる。ここは、周りにああだこうだ言われないような強い勝ち方をしたい。次を見据えた余裕残しの仕上げでも」
その超強気な領家師の頭の中には、一頭のライバルも存在していない。