アメリカ社会が深刻な亀裂を抱えていることは半世紀以上前から指摘されているとともに、大衆文化にも多大な影響を及ぼしている。実際、エンタメの中にはアメリカの分裂、または第二次南北戦争という、奇妙なテーマを取り扱った作品がいくつか存在し、ひとつのジャンルを形成しているといってもいいほどだ。とはいえ、日本ではこれらの作品が紹介されることはほとんどなく、まれに邦訳される際も単に荒唐無稽な冗談として片づけてしまいがちだ。
しかし、白人至上主義者として著名なウィリアム・ルーサー・ピアースが近未来のアメリカで発生する人種間戦争を描いた「ターナー日記」が、アメリカにおける極右や排外主義者に「真実の書」と受け入れられ、また彼らの活動を過激化させるきっかけとなったことを考えると、単なるお遊び的に片づけてしまうのは危うい気がする。実際、この「ターナー日記」は作者の危機意識(実は差別意識)を架空の日記という体裁で文章化したような作品であり、そこには作家のメッセージのみならず、宗教の経典めいた「行動規範」までもが隠されているとも言われているのだ。
そして、このような背景の元に新たな「作品」が生まれ、そこに描かれた架空の世界が現実世界と互いに影響を及ぼし合う、不思議な循環さえ生まれている。また、実際にアメリカが分裂の危機を迎えた場合、社会はどのように変化するのかをシミュレーションする作品もあり、そのひとつが「クライシス2000」というボードゲームである。
ただ、本作の内容や秘められた謎を紹介する前に、架空のシミュレーションが陰謀論者へ極めて大きな影響を及ぼしたとされ、現在でもなお信奉者が絶えない「アイアンマウンテン報告」を簡単に説明しよう。
(続く)