そんなことを考えたこともなかった人はぜひ、その10秒をいかに利用するのか考えてほしい。今や、その10秒は本の中の登場人物や特別な人間だけが持てるものではなく、誰にでも持てる力なのだから。その、神様のような能力を与えてくれるのが「デジタルなまず」である。
デジタルなまずは科学的にも解明されているもので、既にその力を発揮しているとされる。まずそのメカニズムであるが、デジタルなまず本体が直接地震を察知する、というわけではない。2007年10月に登場した緊急地震速報というものをご存じだろう。地震が起こった際、伝わる速度が速く、小さな揺れを起こすP波と大地を揺るがすS波が発生する。S波よりも先に大地を駆けるP波を瞬時に察知し、危険信号を発する。それをデジタルなまずがキャッチして所持者に危機を知らせる。P波が発生してからS波が訪れるまでの時間は、およそ5秒から10秒である。
また、このデジタルなまずは地震を知らせてくれるだけではない。自動防災システムやホームオートメーションシステムなどと連動させることが可能で、二次災害も未然に防ぐ。例えば、揺れを察知するとガスや電気ストーブを消し、電気やテレビをつけ、ドアやカーテンを自動的に開けてくれる。ここまでやってくれるのであれば、危機を知らされた者は、自分の身を守ることに専念できる。それ以上に何を望むと言うのであろうか。
唯一問題があるといえば、その数十秒で何ができるのかであろう。何の予備知識のない者が急に10秒余地を与えられたところで、できることなど知れている。だが、災害に対する心構えを持った者が手にした10秒は偉大なる、それこそ神から与えられた時間となる。
例えば、料理をしているのであればコンロから離れられる。危険物の近くにいれば遠ざかることができる。危険な作業をしている場合でもすぐに手を止め、大きな揺れに備えられる。車に乗っていたとしても、車の速度を落とし、倒れそうな建物から離れることができる。店などにいても、すぐに避難できる。大切な者たちや自分を守ることができる。少しだけでも行動できれば、命が助かる確率は格段に上がることは間違いないだろう。
「たかが数秒、されど数秒」。デジタルなまずを作る会社が口にした言葉である。その数秒を生かすも殺すも、その危険信号を受け取った者次第である。神の代わりに、デジタルなまずが与えてくれた、10秒先の危機を察知する能力をどう活用するかは、あなた次第である。
(山口敏太郎)