マリナーズで活躍した大魔神・佐々木主浩も、この球場を「苦手」とこぼしていた。
現レンジャーズ在籍の建山義紀は今季、44イニングに登板し、8本の本塁打を献上している。建山の被弾と言えば、9月10日の満塁被弾が思い出される。このアスレチックス戦で食らった一撃は「2試合を挟んでの2者連続満塁被弾」であり、メジャー史上2人目という“屈辱の記録”ともなってしまった。1試合目のレッドソックス戦はアウェイだったが、2発目は「失投がそのまま本塁打になる」本拠地の怖さを痛感させられたはずだ。また、現地入りした特派員によれば、「9月に入っても夜の気温は32度ほど」とのこと。日本では「空気が乾燥しているから打球が飛ぶ」と言われてもピンと来ないかもしれないが、アメリカでは空気、高地などによって、ボールの飛距離が本当に違ってくるのである。
MLBの公式HPを見てみると、同球場の1試合平均の本塁打数は「1.500」、得点平均も「1.409」とあり、ともに“30球団ワースト”だった。対照的に、サンフランシスコジャイアンツの本拠地『AT&Tパーク』も打者有利な球場とされるが、1試合平均の本塁打数は「0.596」(1位)。風の影響を受け、ライト方向への本塁打が出にくいからだ。2000年の開場以来、ジャイアンツで30アーチ以上を放った左打者はいない。
被本塁打率の高い『レンジャーズ・ボールパーク・イン・アーリトン』で成功した日本人投手と言えば、大塚晶則(06〜07年)が思い出される。ストレートは140キロ台後半、球種はフォークボール、チェンジアップ、スライダー。大塚には失礼だが、ストレートの速度もフォークの落差も佐々木ほどではない。佐々木が苦手にする球場で適応できた理由は、「この球場の怖さ」を学習したからだろう。当時の大塚の投球内容に関するMLBデータを改めて見てみると、「全投球の70パーセント近くが変化球」となっていた。それも、スライダーが全投球の約50パーセントを占めており、「大塚のスライダーは縦軌道だった」ことを思い出すと、「ゴロ・アウト」を取ろうと意識していたことが窺える。「フライ・アウト」は本塁打にされる可能性がある。ウイニング・ショットのフォークボール以外に縦の変化球を投げられたことが勝因だろう。
ダルビッシュは変化球が多彩だ。投球内容に関するデータによれば、ストレートが約30%、スライダー(横軌道)が約25%、チェンジアップ、フォーク、ツーシーム系の変化球を投げる割合は全体の20%程度に止まっていた。大塚に倣って、ウイニング・ショットは縦軌道の変化球に変更すべきである。
レンジャーズは救援陣が強力なチームでもある。ダルビッシュは「完投する」という意識の高い投手ではあるが、ロン・ワシントン監督は夏場を乗り切るための『体力温存』を理由に、リリーバーを何人もつぎ込んで来る。完投へのこだわりは捨て、建山たちに甘えるつもりでスタートした方がいいのではないだろうか。(スポーツライター・飯山満)