一方、もっと露骨な政権交代に打って出たのがキヤノンである。CEOを兼ねる御手洗会長は1995年から2006年までの11年間にわたってキヤノンの社長を務め、後任の内田社長にトップの座を譲った後もCEO会長のポストを手放さず、名実ともキヤノンの顔だった。従って、内田社長を相談役に追いやり、自ら再び社長を兼務する必然性は見当たらないのだが…。
キヤノンは「内田社長が退任を申し出た」と発表している。しかし、このコメントを額面通りに受け取る関係者は皆無に等しい。そもそも社長交代通知の経緯からして「不可解」(経済記者)であった。
キヤノンが昨年12月期の決算を発表したのは1月30日。その決算短信に紛れるようにして「役員の異動」を示すペーパーがあった。この文書を読んで初めて内田社長の退任と御手洗会長の社長復帰を知ったのである。前出の経済記者が続ける。
「ペーパーを目にし、驚いた記者団から次々と質問が飛んだ。これに対し会社側は御手洗会長が『世界経済が厳しくなる中、自分が戻るしかない』と周囲に漏らしたと説明し、矢継ぎ早に『新しい人に託すのではなく、ベテランに任せて難局を乗り切るしかない』と力説したのですが、なぜCEO会長の御手洗さん自身が社長復帰なのかの説明にはなっていなかった。そのため『さては内田さんと激突した揚げ句、詰め腹辞任に追い込んだのでは』と勘繰る向きさえいたのです」
御手洗会長は今年の新年早々、2015年12月期に売上高5兆円以上としていた中期経営計画の目標を「攻めの経営で必ず達成する」と豪語、海外でのM&Aに意欲を燃やしたばかり。そのためには「技術畑出身で謹厳実直が取り柄の内田社長に代わって、自ら前面に出るのが得策」(キヤノン関係者)と考えたとしても不思議ではない。しかし関係者は辛辣だ。
「創業者一族の御手洗さんは『俺が、俺が』の意識が前面に出る。だから人材育成を怠り、内田社長にも“御手洗家の使用人”との感覚で対応した。日本のメーカー企業が全方位的に苦戦する状況下、そんな殿様感覚はまかり通りませんよ」
ご老体の高笑いとは裏腹に、社員の苦虫を噛みつぶす姿が目に浮かぶようだ。