医師からの宣告で一度はプロレスラーとしての“死”の淵に立たされた小橋だったが、持ち前の不屈の闘志で生還。連日5時間近くのトレーニングをこなし、壁や板にチョップを打ちつける仰天のハードトレーニングを敢行。強靭な肉体を作り上げリングに戻ってきた。
ノアでも初となる立ち見席が売り出され、1万7000人超満員に膨れ上がった日本武道館をつんざく大・コバシコール。静養中にひっきりなしに送られてきたという10万羽を超える千羽鶴のうち、およそ7万羽が飾った花道を小橋は一歩ずつ歩む。
黒にオレンジの柄が入り、縫い目には紫色をあしらった新コスチュームで登場した小橋は、高山が開けたロープをくぐってリングイン。闘志あふれる表情の小橋は、鋭い眼光を対角線の三沢と秋山に浴びせかけた。
秋山の指名で先発のリングに立った小橋は、秋山に自身の代名詞でもあるチョップをたたき込んでいった。代わって入った三沢からはこの日6発目の強烈な一撃でダウンを奪ってみせた。試合開始3分には高山との連携で三沢に13連打を繰り出し、大観衆から「オイ、オイ」と雄叫びを上げさせた。圧巻だったのは19分、秋山をコーナーに詰めて57連打を浴びせ、続けざまに休む間もなく62連打を乱れ打った。
さらに小橋は、青春の一撃、ハーフネルソンスープレックスやスリーパースープレックス、そしてムーンサルトプレスとフェイバリッドホールドを繰り出し、豪腕ラリアートも2発たたき込むなど、ありったけの想いを込めた攻撃を次々に繰り出していった。
さらには持ち前の打たれ強さも存分に見せ付けた小橋。26分過ぎに三沢のエメラルドフロウジョンをもろに食らったが、自力でキックアウト。最後は秋山のエクスプロイダーから、三沢の雪崩式エメラルドフロウジョンを立て続けに食らって3カウントを奪われたが、休養前と変わらぬ姿をファンに披露した。
試合後の小橋は「これで終わりじゃない。リングに上がった以上、さらなる上を目指す」と将来的なタイトル戦線復帰も匂わせ、さらに「ドクターストップが掛かってもプロレスラー小橋建太であり続けます」と堂々の生涯プロレスラー宣言だ。
この日、本紙が行なったファンへのアンケートでは三沢、秋山とのシングルマッチの実現を希望する声が多く占めた。この結果について小橋は「何とも言えない。それはまだまだ」と慎重な構えだったが、うれしそうな笑顔を浮かべていた。
会場を出た小橋が駐車場へと向かうと、その姿を一目見ようと試合終了後1時間半以上も待ち続けていた50人余りのファンからサイン攻めに合った。しかし、人一倍ファン思いの小橋は、寒空の中でおよそ10分間に渡って一人ひとり笑顔でサインに応じていた。
「オレが素晴らしいんじゃない。ファンが素晴らしいんだ」とファンへの感謝の気持ちを片時も忘れない小橋だけに、望まれる夢カードである三沢、秋山戦も必ずや近い将来に実現させるはず。小橋建太は完全復活への確かな一歩を歩み出した。