子どもの頃、毎年夏になると紹介されてきた怪談話「呪いのお菊人形伝説」を御存知の方は多いだろう。
あるお寺に奉納された少女の人形(お菊人形)の髪の毛がいつの間にか伸びているというアレである。決して伸びるはずのない人形の髪の毛が伸びる。その事実はまさに科学では解明できない不可思議な現象であることは間違いない。
ただもう一度、冷静になって考えてみてほしいのだ。人形なのに髪の毛が伸びることと、人間なのに髪の毛が伸びないこととではどちらが恐ろしい現実なのかを。
ほら、わかったでしょ? 格段に我々の方が…呪いのレベルが上なんです。
というか各製薬会社はなにのんびりしてるんだ。一刻も早く、その謎を研究解明し、呪い成分配合のシャンプー&リンスを発売するべきです。嗚呼! できることなら今すぐにでも呪いを頭に振りかけたい…。
そういえば数年前、栗山千明主演の「エクステ」という映画を見たことがある。内容は美容室で無造作に切り落とされた髪の毛たち=死髪(しにがみ)が巨大な毛のかたまりとなって人間に襲いかかるという新感覚にもほどがあるホラー作品であった。
周りの女性客は大きな悲鳴を上げていたが、当然我々、ヘアーリストラ族の感想は違った。
「うーん。意外と悪い話じゃないな…」
だってもう二度と会えないと思っていた髪の毛たちが向こうからやって来てくれるんですよ。こんな嬉しい再会はないでしょ。逃げまどってどうする。自分から毛の中に飛び込んで行け。まるでライオンに噛まれても逆に自分の頭を口の中に入れてライオンを戸惑わせるムツゴロウさんのように。
当時買ったパンフの表紙には、不気味なフォントで「髪」の一文字が。この髪という漢字がどうも昔から気に入らない。いわゆる武田鉄矢風に説明すると「長い友と書いて髪」つまり人生において長い友達が髪の毛という訳である。
オイオイ、待ってくれ。じゃ髪を失うってことは、友を失うってことじゃないか。そうなんです。我々は何も悪いことをしていないのにいつのまにか絶交されてたんです。何とかもう一度やり直せないものか。何度も頭皮をノックしてみたのですが、いまのところ友(毛根)からの返事はないようです。
しかし我々は、決してあきらめません。友との再会を夢見て今日もヘアブラシで頭を叩くのです。もちろん、マッサージも忘れずにね。(ユリオカ超特Q) ※月一連載です。
<プロフィール>
ユリオカ超特Q
漫談家。トップ・カラー所属。毎月第3水曜に「おしゃべり検定」主催。「ハゲ」&「プロレス」&「モノマネ」(藤波辰爾、三谷幸喜)&「辞書ネタ」&「おまじない」など、90分しゃべりつくす単独ライブ「Q展」(次回は12月12日)を年2回開催。立命館大学産業社会学部卒業。趣味は美術館巡り。
【参照】非モテタイムズ
http://himo2.jp/