お店の客があまり入ってないと彼女たちは外に駆り出されて、ボーイさんに混じって、客引きをやらされていた。
「はぁぁ、指名のお客さんが来てくれればこんなことにならないのになー」
冬場なんて、ドレスの上にベンチコート羽織って脚は無防備だから、もう気分はマッチ売りの少女だよ。いくらこれでお客さんをゲットできても、席つくとき、鼻水だーだーじゃ、お客さん、百年の恋も冷めちゃうじゃないのよっ。
「おねがいしまーす、よかったらきてくださぁい」
などと、一オクターブくらい高い声を出して、店のチラシ兼割引チケットを渡していたが、大半は無視。受け取ってくれてももらった瞬間、くしゃくしゃにしてその辺にぽいってされる。結構へこむよ? だって、あれ私の顔写真も載ってるから、自分そのものがぽいってされてる感じがして悲しい。
それでもめげずに、おねがいしまーす、と言い続けて、ようやくチラシを気にしてくれる男性がいた。チャンスとばかりに
「いかがですかー? 可愛い楽しい女の子いっぱいいますよー? 初回はこれだけなんで、お試しで是非いらしてくださーい」
と必死で笑顔を作って、どうにかこの人をお店に引き込もうと頑張った。
が、桃の一生懸命さを嘲笑うように、その人は彼女とチラシを見比べながら
「あんた、こんなチラシに載るくらい、店の看板じゃないわけ?」
「え?」
「チラシに載ってんだから、売れっ子ちゃんなんでしょ? みんな。けど、今ここでチラシ配ってるのあんただけじゃん」
と言うと、そのチラシをくしゃくしゃにして空高くぽーんって投げた…。
こっちだって好きでこんなことしてるわけじゃないのに。いつも来てくれるお客さんたちが、たまたま今日はみんな無理なだけであって…。
もう一時間も店の外でこんなことしてて、脚が疲れてきちゃった。
そんな時、ちょうど店の看板写真を数枚取り換えるみたいで、ボーイさんたちが何人かで女の子の写真を外していた。それをよく見ると…桃の写真が新人の子と取り換えられてる!!
「ちょっと待ってくださいよぉー、どうしてわたしの写真はずすんですかぁ??」
「あぁ、桃さん、これ店長命令でして…若い子に極力変えろっていうんですよ」
わ、若い子??
わたしまだ22だよ? それに、売れっ子ちゃんたち、わたしと歳変わんないのに、なんでこうなるの? しかも新しく飾られてる写真の子、最近店長のごり推しの子じゃない! ていうか、年齢なんじゃなくて売れてる子の写真を載せるつもりなんじゃ??
なんか、どこかのアイドルグループみたい。お払い箱になるアイドルの子も、きっとこんな気持ちなんだろうか。
桃が退店を決意したのはそれから一か月後だった。
文・二ノ宮さな…OL、キャバクラ嬢を経てライターに。広報誌からBL同人誌など幅広いジャンルを手がける。風水、タロット、ダウジングのプロフェッショナルでもある。ツイッターは@llsanachanll