「先輩、ザシキワラシっているんですよね」
こんな感じで、彼は僕に話してくれたんです。でもいきなり、こんな話されても俄かに理解できないですよね。
「ザシキワラシって、あの子供の姿をした妖怪?」
当然、僕はいぶしかげな表情で聞き返してしまいました。
「ええ、そうですね、僕はザシキワラシのおかげでキャプテンになれたんです」
「なんだって、本当なのか」
彼はなかなか好青年でしてね、さわやかな奴で嘘なんかつく人物ではありません。実は彼は、大学時代バスケットをやっていたんだそうなんです。N大学のバスケ部にいたそうなんですが、なんとそこでキャプテンを務めていたんだそうです。大学の体育会系のキャプテンっていうのは、なかなかできるものではありません。そのキャプテンの座をザシキワラシのおかげで射止めたとは、どういう事なんでしょうか。
彼の話によると、当時はまだ現存していたN大のバスケット部の宿舎があったそうです。その宿舎には、代々こんな話が語り継がれていたのです。
「この宿舎には、ザシキワラシがいる。このザシキワラシを見た者は、必ずレギュラーになれる」
そんな内容だったのです。ですが、その人物は所詮伝説だろうと高を括っていました。ある夜の事、宿舎で寝ていると全身が動かなくなったそうです。しかも、何者かが布団の上から、もの凄い力で押さえつけており、まったく抵抗できないそうなんです。
「誰だ!!抑えているのは」
必死に目を凝らすと、布団の上で体を押さえつけていたのは、小さなおかっぱのザシキワラシであったという。
「はっ、放せ」
必死に抵抗したものの、どうにもできず、結局朝まで気を失ってしまった。翌朝、とくに異常はなかったのだが、何故かめきめきとバスケットの腕があがり、レギュラー、そしてキャプテンにまで昇格したのだそうです。
いまは、その宿舎もないそうですが、そのザシキワラシはどこに行ったんでしょうね。
監修:山口敏太郎事務所