昨日は瀬戸口師の引退について触れたが、今年はもう一人、忘れてはならない人物が定年を迎える。重賞77勝、うちGI級レースは12勝(グレード制導入以前も含む)。関西の、いや、中央競馬の重鎮・伊藤雄二師が、調教師生活最後の週にメイショウオウテを送り出す。
あくまでも「中締め」を強調する師は、このオウテについても「何が何でもここを勝たなければいけないというわけではない。先のある馬だし、ボクが最後でも、お馬さんはそうじゃないんだから」と自然体の仕上げを強調。決して自分本位ではなく、馬を第一に優先してきた生きざまをここでも貫いている。
オープン昇級後は(5)(4)(5)着と、勝ち切れない現状については「展開や位置取りに左右されてしまう馬やからね。好みの流れにならなかったということ。最後はジリジリきているんやけどね」。前走の白富士Sにしても、上がり3Fは勝ち馬と同じ(3F)34秒6を計時して0秒4差。まさに師の言う位置取りの差が明暗を分けた格好だが、流れひとつでチャンスがあることもまた事実である。
「馬場さえ悪くならなければ、テンが速くなるだろうから折り合いや追走は楽になる。元気良く仕上がっているし、天気ならまずいいレースになると思いますよ」
ニッコリと笑みを浮かべ、自身の「ひと区切りとなるレース」で愛馬の好走を期待していた。
今後、伊藤雄厩舎の所属馬は、主に新規開業となる庄野(靖志)、梅田(智之)の両厩舎へ振り分けられる。師が「中締め」という言葉に固執するのも、このことからだ。馬だけでなく、人の育成にも重きをおく伊藤雄師だけに「彼らにはいろいろと教えていかなあかんから。調教師業というものなど、伝えられるべきことは伝えていきたい」と話す。
マックスビューティにエアグルーヴ、ファインモーション、そしてダービーを制したウイニングチケット。数え上げればきりのないスターホースの数々。師の経験した育成術、調教術は今後もしかと受け継がれていくはずだ。
「まっ、最後、最後とあなた方はいうけど、肩を張らずにいきますわ。ファンの皆さんにはいっぱい応援をいただいて励みになりましたが、今後も新たな2つの厩舎を見てあげてください」
中央競馬の一時代を築いた名伯楽は、ひとまず表舞台から身を引く。しかし、彼の競馬人育成、競走馬育成生活は、まだまだ終えんを迎えることはない。“雄二イズム”は今後も脈々と継承されていく。