出場のきっかけは、3点ビハインドの9回表、平石洋介監督がスタメンの嶋基宏に代わって守備に入っていた足立祐一に代打を出したこと。選手総動員で逆転への執念を見せると、イーグルス打線が奮起。オリックスの抑え投手増井浩俊から3点をもぎ取った。
しかし、同点止まりだったため、その裏から守る必要が生まれる。楽天は一軍捕手2人体制で、緊急時の捕手起用に備えていた岡島豪郎も二軍という状況で、用兵が注目された。
9回裏に出てきたのは、捕手としてプロ入りし、後に内野手に転向した銀次。捕手としての出場はなんと10年ぶりで、1軍でマスクをかぶるのは初めて。「変化球が捕れるのか」「盗塁が刺せるのか」など不安満載だったが、そこは「元捕手」の銀次。ほぼ違和感のないキャッチングを見せた上、9回裏には、盗塁を試みた西浦颯大を素早いスローイングでアウトにしてみせた。
試合は同点のまま延長戦に入り、結局引き分け。銀次は捕手として4イニング出場し、投手とともにオリックス打線を無失点に抑えた。9回表攻撃開始時に3点差をつけられ、しかも捕手を使い切ってしまった状態を考えると、勝ちに等しい引き分けと言える。
そんな銀次の頑張りをプロ野球ファンは「凄い」「緊急時に補充ができる選手はすごい」「ほぼ違和感なかった」など、称賛の声を上げる。その勢いは凄まじく、「キャッチャー銀次」がTwitterのトレンド上位に入るほどだった。
奇しくも4月7日は、巨人時代同じように捕手を使い切り、経験者ということで、キャッチャーに入った木村拓也さんの命日だっただけに、「木村さんもきっと見ていた」「木村さんも銀次の苦労を称賛しているはず」など、亡くなった木村さんを思い出す声もあった。
3点差ながら、捕手を使い切ってでも同点に追いつこうと代打を出した平石監督と、それに応えたイーグルスの選手たち。そして、緊急事態でほとんど練習していないであろう状態にもかかわらず捕手に入り、盗塁を刺すなど期待値以上の活躍を見せた銀次。その頑張りは素晴らしいの一言だ。
一方、オリックスは抑えの増井が炎上したうえ、急造捕手がマスクをかぶっているにもかかわらず、相手の隙をつくことが出来ず、負けに等しい敗戦に。開幕から好調で現在2位の楽天と、千葉ロッテと同率最下位に喘ぐオリックスの差がはっきりと出た。
引き分けに終わったものの、チームの団結と執念を感じさせた東北楽天ゴールデンイーグルス。今後の浮上を予感させるような試合内容だった。
文・櫻井哲夫