「最近のスマホはGPSも搭載されていますし、アプリを利用すれば瞬時にリアルタイムの渋滞情報も分かります。また、災害時は注意報が鳴り、注意を呼び掛けるのは、すでに所有者なら体験済みでしょう。グーグルマップを使ったナビゲーションは、もはやカーナビ専用機の機能を凌駕するほど高機能で、実際、カーナビメーカーはスマホ普及後、軒並み市場規模を縮少し続け、赤字を余儀なくされています。これもスマホのナビ機能を利用する人が増えたのが大きな原因と言っていいでしょうね」(IT雑誌記者)
実際、検索大手のヤフーも昨年、カーナビ市場に参入。無料アプリとしては国内で初めて道路交通情報通信システム(VICS)に対応。リアルタイムで渋滞情報を受信し、渋滞回避ルートを検索できる機能を付けた。さらには付近の駐車場の空き具合やガソリン価格を反映させたガソリンスタンド検索にも対応しているとあって、取り付けに手間と工賃が掛かり、本体自体も最低数万円はするカーナビにとっては手ごわいライバルだ。
日進月歩のIT業界。1年、いや物によっては半年で新型機を投入してくるような業界が次々と便利なサービスを提供してくる中で、あえて巨額の税金を投入してまでETC2.0を進めようとする国交省の思惑とは何なのだろうか?
「確かにETC2.0でできることは手持ちのスマホでも十分可能でしょうね。とはいっても、スマホでできるからといって国の方針として長期的に進めている計画を簡単にやめるわけにはいかないのが現状でしょう。さらには2011年から敷設しているITSスポットを早く活用していきたいから、という思惑もあると思います」(全国紙記者)
ITSスポットとはETC2.0と双方向通信する装置。全国の高速道路上や道の駅などに段階的に設置されていて、すでにその数は1600にも上る。もちろんこれは国家プロジェクトとして多額の税金が投入された設備。設置したはいいが活用しなければ意味がないので、国交省としてはなるべく多くのドライバーにETC2.0を使ってほしいと思っているのだ。
安全運転支援、渋滞回避支援、災害時支援、これらを軸に普及を目指すETC2.0。さらには2016年春ごろをめどにゲートバーを廃止して、一定速度で通過できるETC2.0専用レーンの設置も計画されている。その効果を国交省は、どの程度見込んでいるのか。
「今までのETCは料金所の料金支払い機能に限定されていました。しかし、ETC2.0ではITSスポットと双方向通信することで幅広い情報をドライバーが受け取ることができます。カーナビに機能追加することで“1つの車載器”で各種支援機能を利用できるようになり、渋滞回避などストレスのない車社会への可能性が広がると考えています。現在、ETCは90%の普及率がありますが、今後は車の乗り換えや機種の入れ替え時などに順次ETC2.0に切り替えていただき、サービスの導入と利便性を向上させていきたいですね」(国交省・道路局ITS推進室)
ここで言う“1つの車載器”とは、スマホなどを利用するのではなく「車に設置した機器1つですべての機能が利用できますよ」という意味らしい。どうやらスマホなどで同じようなサービスが手軽に利用できることは十分把握しているが、国交省としてはあくまでも国策としてETC2.0の普及を目指しているようだ。
都心の慢性的な首都高渋滞も、中央環状線(高速湾岸線〜高速3号渋谷線)の開通で都心環状線の交通量は約5%減少、また中央環状線内側の渋滞は約5割も減少した。このような分かりやすい渋滞緩和効果を、果たしてETC2.0は挙げられるのだろうか。
「民間のIT企業が臨機応変に便利なアプリを次々開発する中、長時間の議論と税金を掛けた国家的な政策が、時代の移り変わりの早さに追従できないのは仕方ありません。だからといって、簡単に計画を取りやめるわけにはいかない。多くの市民が望むことは『税金のムダ遣いだけは避けてもらいたい』というのが本音でしょう」(前出のIT雑誌記者)
奇しくも東京オリンピックの新国立競技場建設問題など、ずさんな計画が明るみになったばかり。果たしてETC2.0は、どれほどわれわれに恩恵を与えてくれるのか。本格的な運用が始まれば、その答えもすぐに出るだろう。